日米でウエアラブル玩具販売
日本発!起業家の挑戦■Moff共同創業者・高萩昭範氏に聞く
Moffの共同創業者で代表の高萩昭範氏は、日常生活で使われるさまざまな物がインターネットに接続して制御される「モノのインターネット」(IoT)が急速に広まっていると言う。IoTはほとんど誰も気づかないほどありふれたものになりつつあり、全てのモノがIoTで相互接続される世界が目前に迫っている。玩具も例外ではない。
2013年に設立されたMoffでは、モフバンドと呼ばれるIoT玩具が開発されている。腕時計型のモフバンドを装着すると、手首の動きをセンサーが読み取り専用アプリが反応する。子供が簡単に遊べるウエアラブル玩具だ。腕の動きに応じてターンテーブル、刀、バッティング、変身ポーズなどのあらゆる効果音が出て、子供はDJ、侍、野球選手、戦隊ヒーローなどになりきって遊べる。14年にキックスターターでクラウドファンディングキャンペーンを成功させ、国内に続き米国でも販売を始めた。また、15年に提供を始めた知育アプリを使えば、体を動かしながらゲームも楽しめる。
◆制限なく動き反映
--モフバンドは任天堂のWiiやマイクロソフトのキネクトなどのモーションセンサーを使った機器のカテゴリに当てはまりそうですね
「大きく違う点があります。Wiiやキネクトは、ユーザーがカメラやセンサーの前でジェスチャーをする必要がありますが、こうした機器はじっとしていない幼児には不向きです。センサー内蔵のモフバンドを付けていれば、どこに行って何をしても装着者の動きがアプリに反映されます。3歳から10歳の子供をターゲットにしているので、この点は重要です」
--Moffは15年に米国法人を設立しました。モフバンドを積極的に米国で売ろうとしている理由は
「米国で行ったテストを通じて、親たちが音の出る騒がしい玩具に抵抗がなさそうだと分かったからです。一般的に家や部屋が広い米国の住宅事情が関係していると思います。もう一つの理由は、米国のウエアラブル端末市場が、日本に比べて進んでいることです。米国では玩具の流通関係者に説明すると、モフバンドのようなウエアラブル玩具の使い方をすぐに理解してもらえますが、日本ではまだ新しく、未知の玩具として扱われてしまいます」
--初めは、センサーを作って日本の玩具メーカーにライセンスしようとしていたとか
「そうです。センサーをぬいぐるみなどの玩具に搭載して、子供がスマホの画面に向き合わずにコンピューターとフィジカルに関われる手段を提供したいと考えていました。残念ながら、玩具のどの部分を触るかによって動きを分析するのが難しくなる技術的制限があり、Moffのあらゆる可能性を検討して戦略を変えました。それで、ウエアラブル玩具を自分たちで売ろうと決めたんです」
◆最初は共感得られず
--モフバンドに対する最初の反応はどうでしたか
「14年にキックスターターでキャンペーンを成功させるまでは、ほとんどの人がモフバンドなんて売れないと思っていました。多くのスタートアップが同じことを経験していると思います。子供たちは気に入ってくれても、投資家や玩具メーカーの人はモフバンドをひどいアイデアだと考えていたようです。まれにアイデアに共感する人がいても、もっと標準的な玩具に変えるよう私たちに求めました。ウエアラブル機器ではなく、ピンクや青色の箱型にしてはどうか、という風に。キックスターターで1000人を超える支援者から計7万8871ドル(約870万円)を集めると、急に多くの人が考えを変えたようでした」
--売り上げは
「ローンチした年の売り上げは上々でした。アマゾンの電子玩具部門で国内最高1位、米国最高2位にランクインしました。日米で有名小売店を通じた販売も行っているので、まず両国で売り上げを伸ばし、その他の地域にもつなげていきたいですね」
◆子供や家族のため
--起業前はメルセデスベンツやクラフトフーズグループでプロダクトマーケティングを担当していたそうですが、大企業を辞めてIoTのスタートアップを始めたのはなぜでしょう
「日本のモノづくりにも、IoTにも長年関心を持ってきましたが、第1子が生まれてから、自然と玩具について考えることが多くなりました。IoT玩具を子供や家族のコミュニケーションのために作ろうとしていた中でMoffのアイデアが生まれました」
--大企業勤務時代を振り返って、懐かしく思い出すことはありますか
「給料ですね。創業者の給料はそれに比べると本当に少ないんですが、そのことを除けばスタートアップ経営はとてもやりがいのある仕事です。妻や家族みんなが、家庭のお財布事情が厳しくなることを承知でサポートしてくれたので、幸運だったと思います。Moffが私にとって大切な事業だと理解してくれたんです」
--起業して一番難しかったことは
「13年に始めたときは、ただ素晴らしい技術と玩具を作りたいだけでしたが、やってみると私の時間のほとんどが採用やチーム作り、資金集め、経営上の雑務に消えていきました。初心を保ちながら、それに慣れるのは簡単ではありませんでした」
--モフバンドが最初からグローバル展開をしていたことに感心します。日本のIoT企業はグローバル市場で戦う準備ができていると思いますか
「残念ながら、楽観的なことは言えません。日本では優れたハードウエアが製造されていると思いますが、IoT製品として成功するためには優れたソフトウエアも欠かせません。日本企業はハードウエアをいかに良いものにするかを優先しすぎて、ユーザーに心地よく面白い体験を提供することをおろそかにしています。プラットホーム開発にも手が回っていません」
--Moffの次の戦略は
「他のIoT企業に対する批判は自分たちに対する戒めでもあります。私たちももちろん同じ課題に直面しているからです。昨年11月に、米国の有名教育メディアブランドと共同開発した知育アプリの無料提供を始めました。私たちが今もっとも力を入れているのは、プラットホーム開発です。ユーザーからたくさんのデータを取得しているので、それを有効に活用してユーザーにより良い体験を提供したいですし、遊びや知育に限らずさまざまなサービスを提案していきたいと思います」
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Moffは技術的な限界やマーケティング上の戦略を理由に、既存の玩具メーカーとの協業から、ウエアラブル玩具の自社販売に舵を切った点は興味深い。結果的に、Moffと高萩氏にとってはそれが最良の判断だったといえるだろう。
革新的な製品やサービスを生み出すときに起こりがちなことだが、モフバンドについてほとんどの専門家は「子供たちは、こんな玩具に興味を持たないだろう」と言った。実際のテストでは子供たちが興味を示してさまざまな遊び方を試していたのに、だ。ユーザーテストを通じて確信を持った高萩氏は、既存メーカーに身を委ねず、自ら販路や流通ルートを決めていった。だからこそ、この小さなウエアラブル玩具は大企業の会議でお蔵入りにならなかった。世界の子供たちの想像力がかきたてられるならば、少しばかり騒がしい効果音は大目に見よう。
文:ティム・ロメロ
訳:堀まどか
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【プロフィル】ティム・ロメロ
米国出身。東京に拠点を置き、起業家として活躍。20年以上前に来日し、以来複数の会社を立ち上げ、売却。“Disrupting Japan”(日本をディスラプトする)と題するポッドキャストを主催するほか、起業家のメンター及び投資家としても日本のスタートアップコミュニティーに深く関与する。公式ホームページ=http://www.t3.org、ポッドキャスト=http://www.disruptingjapan.com/
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