内田販売システム 累計30万本のトレーニングバット

岩手発 輝く
12件の特許を取得したパワースラッガーなど画期的なトレーニング器具の数々=岩手県宮古市

 ■一流が愛用

 野球をはじめ画期的なスポーツトレーニング用品の開発で知られる、内田販売システム。プロ野球の一流選手も愛用するトレーニングバットは売り上げ累計が約30万本にも達する。岩手県の旧新里村(現宮古市)にあった木工所が前身で、木材加工で培った高い技術力で新製品づくりに挑戦し続けている。

 ◆ヒット生んだ起業魂

 トレーニングバットを開発した内田広子社長(57)は、同社の前身、内田製材木工所を1959(昭和34)年に設立した内田嘉吉氏(故人)の長女。木工所は旧新里村の豊富な森林資源を利用し、木製魚箱の製造のほか、新幹線工事用の土台の加工や、そろばんの木玉の素材加工などを手掛けた。

 そろばんの木玉に使う木は「オノオレカンバ」。岩手県内でも一部だけでとれる広葉樹だ。「おのが折れるほど硬い」が名前の由来という。加工には高い技術力が必要で、現在もオノオレカンバの木玉の素材加工を続けているのは国内で同社だけ。伝統工芸品の「播州算盤(そろばん)」(兵庫)や「雲州算盤」(島根)にも使われている。

 短大進学を機に郷里を離れ、84年に結婚、子宝にも恵まれ、横浜で暮らしていた内田社長に大きな転機が訪れたのは86年。「実家のことが気になって…」と帰省してみると、木工所にコンピューター数値制御(NC)で木材を精密に削れる高価な加工機「NCルーター」があった。ところが、十分使いこなせていなかった。

 「機械を使う人がいないんですよ。父親にとって高価な機械の導入は大きな賭けだったと思います。そこで、親孝行のためにもやってみたいと思って…。父親譲りでものづくりがとにかく大好きなんですね。そんな成り行きでこちらの方に戻ってきてしまいました」と笑う。

 独立心旺盛で、結婚前は米国でレストラン経営を目指していた。「人に使われるのが嫌」という起業家魂に火が付いた。NCルーターを使ったヒバ材の薄いまな板、トレーは東京の大手百貨店の棚に20年間も並ぶロングセラーになった。

 ◆オンリーワンに挑戦

 トレーニングバットが生まれたのは「良いものは必ず受け入れられる」という信念から。94年発売の「パワースラッガー」は一般的なマスコットバットとは異なり、振るだけで実際に球を打ったインパクトを体験できる画期的なバットだ。

 金属製の軸に手元から木製のグリップ、おもり、先端にヘッドが取り付けられている。振ると、遠心力で軸上を動くおもりがヘッドに当たり球を打ったインパクトを体験できる仕組み。発展型の「モンスタースラッガー」はプロゴルファーも筋力アップに役立てているという。

 脇を締めてバットを振る感覚を養える「シュプリームスイング」や、ミート力向上のため極細にした「コアバット」、投手の指先などを鍛える「フィンガーエース」、手首や肘、肩の可動域を広げる「フィンガーゴリラ」も開発、テニスのトレーニング機器も手掛けた。

 内田社長が現在、商品開発で最も注目しているのは“足と指”。東大と共同研究した靴のインソールを今年8月、「ファンバルソール」の商品名で発売する予定だ。特許も取得済み。従業員がわずか11人の企業でありながらこれまでに取得した特許は12件を数える。

 パワースラッガーなどトレーニングバット系が4件、ダンベル系3件、野球のボール系2件、テニス・ボディーツイスト・インソールが各1件。内田社長は「これまでお客さまに育ててもらいました。さらにオンリーワンの良い製品づくりに挑戦していきたい」と意欲的だ。(石田征広)

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【企業概要】内田販売システム

 ▽本社=岩手県宮古市刈屋4-1-1 ((電)0193・73・2840)

 ▽設立=1996年

 ▽資本金=300万円

 ▽従業員=11人

 ▽売上高=1億5000万円(2015年5月期)

 ▽事業内容=トレーニング機器の企画・製造・販売

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 □内田広子社長

 ■“足と指”テーマに商品開発

 --取得した特許が12件もある

 「うちのような小さな企業は他社に商品をまねをされたらもたない。そこで特許を取得していったら12件になった。それに、特許があるのとないのでは対外的な信用力がまったく違う。社内的には安心して従業員が仕事をすることができるし、商品開発もできるということだ。『特許を取るのは大変でしょう』と、よく聞かれるが、今までにないものだから特許は取れると思ってやってきた。申請書が審判に回って東京の特許庁まで足を運んだのは1回だけで、これも取ることができた。今後は国際特許にも積極的に取り組みたい」

 --商品開発の最大テーマが“足と指”というのは

 「実は自分自身が腰痛になって歩けなくなったのがきっかけ。老いは足からといわれる。下半身が簡単に鍛えられて腰痛を治せる器具ができないものかと考えた。最初に開発したのは『キュットピット』。青竹踏みに似た器具だが、上部は波形で左右対称に4つの傾斜がつけてあり、この傾斜を利用してつま先やかかと、土踏まずで乗るだけで足裏からインナーマッスルを刺激して、歩く、立ち上がる、走るなどの下半身を鍛えられる。乗りながらのストレッチで股(こ)関節や体幹が同時に強化し、シェイプアップにもなる」

 --今後の商品開発は

 「日本は急速な高齢化によって、10年後には65歳以上の高齢者が30%を超えるといわれている。商品開発は今後も足と指を主なテーマにして下半身にこだわった商品を追求していくつもり。アスリートたちがその持てる能力を一層高められるだけでなく、一般の方が下半身を鍛えて健康を維持できるよう広く使っていただけるような、世の中の役に立つ商品をつくっていきたい」

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【プロフィル】内田広子

 うちだ・ひろこ 短大、大阪の料理学校を経て東京で3年間、レストランや菓子店に勤務。1984年に結婚。86年、内田木工に入社、93年、専務。96年、内田販売システムを設立。2011年、内田木工を合併。57歳。岩手県出身。

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 ≪イチ押し!≫

 ■画期的なインソールで足腰強化

 「3000歩の歩行で10000歩の効果」を目指して東京大学との共同研究で完成した画期的なインソール「ファンバルソール」。

 シューズに入れて歩くだけで体力強化ができるという発想で開発された。足の指の筋肉が体全体を支える重要な筋肉であることに着目。上面がカメの甲羅のように盛り上がった丸みを帯びた形状で、シューズに足を入れた段階で自然に5本の足の指が開くようになっている。

 立った状態で背筋が真っすぐ伸びるほか、5本の足の指でしっかり大地をつかむように歩くことができるようになり、歩幅が無理なく自然に広がって、ブレのない歩行となり、足裏からの刺激によって全身の筋肉を活性化、歩くだけで足腰と体力の強化ができる。

 米国、欧州、中国の国際特許を申請中で、今年8月から販売予定。価格は未定。