「スマート教育」パナソニックやシャープ入り乱れ “官製市場”争奪戦が激化
政府の進める教育のIT化をにらみ、電機大手が新商品やサービスを相次いで打ち出している。パナソニックは5月から、使い勝手を向上させた電子黒板の新商品の販売を始め、シャープも英検学習用のデジタル教材を売り出した。政府はタブレット端末や電子黒板の導入など教育現場の情報通信技術(ICT)環境の整備に向け、平成26年度からの4年間で総額約6700億円の予算を充てる方針だ。予算措置を受けて教育ビジネス市場は盛り上がりを見せており、大きな商機ととらえる各社は教育機関や自治体への売り込みに力を注ぐ。(橋本亮)
“人に優しい”黒板
「先生からの声や要望を取り入れることで、より使いやすい商品に進化した」
パナソニックの担当者が胸を張る新型の電子黒板は簡単、人に優しい、安心を商品コンセプトにした。
電子黒板はタッチパネルを内蔵した液晶ディスプレーで、画面に指やペンで触れると文字や絵を書き込めたり、パソコン上の画像や動画を映し出せる機能を持った“未来の黒板”だ。
新商品は色の見え方が一般の人と異なる色弱者にも見やすいように色の使い方や文字の形などに配慮しているのが特徴。色弱者は男性の20人に1人、女性の500人に1人の割合とされるが、本人も色弱と気付かずに授業で問題になることもあるという。
さらに、ワイヤレスでパソコンやタブレット端末につながるため、配線が不要で、生徒がつまずく心配がないのも売りの1つだ。
電子黒板は27年3月1日現在で約9万台導入されており、パナソニックは30%のシェアを占めて2位。政府の後押しもあり、今後は導入の加速が予想される。担当者は「需要は非常に大きい。現場のニーズを細かく把握、商品に反映することで、シェアを上げていきたい」と強調。「自治体や教育機関への売り込みを図り、30年度にはシェアを40%まで高め、トップを目指す」(同担当者)という。
NECも6月、キズが付きにくく、外光の映り込みを抑えた見やすい画面を採用した新型電子黒板の販売を始める。複数の人数による同時操作が可能で、縦置き設置も対応。授業や会議だけでなく、校内の電子案内板としても使用できる。
電子教材で学力向上
電子黒板シェアトップのシャープは5月から、生徒一人ひとりの学力に合わせて英検受験の勉強を支援する新たな電子教材「KINTR(キントレ)」の売り込みを始めた。教材は旺文社と共同で開発、タブレット端末を使って利用する。
生徒は教材を使う前に英語力を確認するためのテストを受けて目指す英検の級を設定し、それに応じた問題が出題される仕組み。間違えた部分は記録され、復習に役立ったり、教師が個々の生徒の学習の進み具合や苦手分野を把握し、指導に生かすことができる。
個人の学習履歴は外部記録メモリーに保存できるため、タブレット端末が少なくても1台の端末を共有することで、複数の生徒が教材を利用することが可能。導入コストも安く済む。
学習効果は実証済みで昨年、佐賀県内の中学3年生に使ってもらったところ、英検合格に必要な学力レベルの平均が教材使用前の3級から準2級に上がり、確認テストの正答率も全体で16・4%向上したという。
シャープの担当者は「生徒の学力向上に加え、学習意欲についても一定の成果が確認でき、高い評価を頂いた。29年度に100自治体での採用を目指して全国の中学、高校への提案を積極化させる」と意気込む。
関連市場は急拡大
調査会社の富士キメラ総研(東京)によると、電子黒板やタブレット端末、電子教材などを含めた国内の教育機関向けICT関連市場は26年度に前年度比2・2%増の1640億円。政府が32年までに、小中学校の生徒1人に1台のタブレット端末を整備する目標を掲げていることもあり、32年度には26年度比46・5%増の2403億円にまで拡大するとみられている。
とりわけ、タブレット端末の市場規模は26年度の20億円から、32年度には10・5倍となる210億円にふくらむ見通し。電子黒板市場も51億円から、54億円に増えると予測されている。
少子化で児童生徒が減る一方、地域や両親の所得などによって受けられる教育レベルの格差が広がっている。地方では学校数が減ったことで通学時間が増え、勉強にあてる時間が減ったり、教員数の減少に伴って業務負荷が増大し、生徒児童への十分な指導ができなくなっている。ICTを活用した「スマート教育」は教員の負担を減らしたり、個々の児童生徒の学力に応じた指導が行えるというメリットがあるとされる。
電機大手にとっても教育ビジネスは縮小が続く国内市場で、これまでのノウハウを生かして開拓できる余地がある分野だけに、事業拡大への期待は大きい。
ただ、熱い視線を送るのは電機大手だけではない。
通信大手のソフトバンクはベネッセホールディングスと組み、デジタル教材の配信サービスを開始。教育向けICT分野はいまや、異業種からの新規参入組や海外メーカーが入り乱れる激戦地になりつつある。
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