日産が“究極のエコカー” バイオ燃料で発電 EVよりクリーン

高論卓説

 日産自動車が発表した燃料電池車向けシステム「e-Bio Fuel-Cell」は、車載タンクに入れた液体のバイオエタノールで発電する。走行中はもとより、バイオエタノール生成においても二酸化炭素(CO2)が発生しない。化石燃料に依存しない究極のエコカー開発に弾みがつきそうだ。

 走行中に一切の有害物質を排出しない電動車両には、電気自動車(EV)と水素を燃料とする燃料電池車(FCV)がある。

 しかし、発電や水素の生成には、化石燃料が使用されている。EVは、火力発電による電気を多く使用するためCO2排出が増える。FCVに使う気体の水素は、99.97%以上の高純度が要求されるため、天然ガスなど化石燃料から改質している。EV、FCVが普及するほどに、低炭素社会に逆行してしまっているのが現実だ。

 この点、バイオエタノールはサトウキビをはじめコーンなどを原料とする。サトウキビの場合は、搾汁と搾りかすに酵母を加えてアルコール発酵させ、蒸留することで生成される。

 日産の「e-Bio Fuel-Cell」では、(1)バイオエタノール(100%エタノールあるいは45%エタノールの混合水)を車載の燃料タンクに注入(2)走行時、バイオエタノールは改質器に送られて熱により水素とCO2に分離される(3)分離された水素は「固体酸化物形燃料電池(SOFC)」に送られる。空気中の酸素がSOFC内の電解質を通過して発電し、送られた水素と反応して水となる(4)発電した電気は車載のリチウムイオン電池に充電され、モーターを駆動する。

 サトウキビの収穫や運搬にはトラックを使い、バイオエタノールから水素に改質するときにCO2は発生する。だが、サトウキビが生育する間にCO2を吸収するため、相殺されていわゆる“カーボンニュートラル”となる。

 一方、トヨタ「MIRAI(ミライ)」など従来のFCVは「固体高分子型燃料電池(PEFC)」を搭載。こちらは水素イオンが電解質を通過して発電し、酸素と反応して水になる。

 SOFCでは700~800度の高温で反応するため、常温で反応するPEFCに必須な白金など高価な貴金属を必要としない。電解質の組成も両者は異なるが、SOFCでは電解質を通過するのは酸素なので、高純度な水素を要求されない。タンクにしても、安価な金属製で対応でき、従来型FCVのような炭素繊維などを使った高圧水素タンクの必要がない。

 これらの事情から「e-Bio Fuel-Cell」の車両価格は従来型FCVよりも大幅に安くでき、水素ステーションそのものがいらない。航続距離もガソリン車並みだ。日産の坂本秀行副社長は「商品化は2020年をめどとするが、日産としては水素を燃料とする燃料電池車より、こちらの商品化が先になるだろう」と説明する。ブラジルや米国ならば、ガソリンスタンドの多くがエタノールを販売しているため、すぐに実用化は可能だ。

 高温での耐久性に課題は残るものの、コストは安く、今夏にもバンタイプの試作車を日産は公開するという。

 さて、バイオエタノールはその原料において、どうしても食用と競合してしまう。そこで、一歩進んで麦わらなどのセルロースからエタノールを精製する技術の確立を急ぎたい。前処理の糖化工程に使用する酵素剤をはじめ、少ないエネルギーによる水熱分解、さらに高効率な発酵など、クリアすべきハードルは高い。だが、再生可能エネルギーであるセルロースを原料とした低コストのバイオエタノールの実用化は、燃料までを含めた自動車の脱炭素化へと大きく前進できる。日産の今回の技術は、低炭素社会に逆行しないという点で意義深い。

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【プロフィル】永井隆

 ながい・たかし ジャーナリスト。明大卒。東京タイムズ記者を経て1992年からフリー。著書は「サントリー対キリン」「人事と出世の方程式」など多数。58歳。群馬県出身。