飲料の新市場づくりへ 宣伝のプロ挑む

リーダーの素顔

 □サントリー食品インターナショナル社長・小郷三朗さん

 サントリー食品インターナショナルの経営を3月に任された。宣伝や市場調査といったマーケティングのプロとして、創業家出身でサントリーホールディングスの鳥井信宏副社長からの信任も厚い。人口減少などで飲料市場が伸び悩む中、飲料業界での生存競争は激しさを増すばかりだが、「工夫次第ではまだまだ成長できる」と言い切る。

 --マーケティングのプロとして業界で知られるが、印象に残った仕事は

 「いろいろなことをやり、山ほど失敗しました。目立った失敗という意味では1980年代前半に発売した炭酸飲料『サスケ』。当時、飲料市場でシェアが約3割のコカ・コーラに対抗するために投入した商品で、キャッチコピーは『コーラの前を横切るヤツ』でした。本当に横切って終わってしまいました」

 --サントリーの創業者、鳥井信治郎氏の口癖は「やってみなはれ」だった

 「『やってみなはれ』ということはいろいろと失敗しろという意味。失敗を奨励し、失敗から学び、また失敗してもチャレンジする。だから失敗しても怒られたことはありません。失敗から学ぶことが重要です。新しいことに臆せずチャレンジする風土を大切にしていきたい」

 --国内飲料市場はここ数年伸び悩んでいる

 「2007年以降、デフレ進行の影響を受けて、販売単価は下落傾向にあります。市場が平均2~3%伸びていた時代は多少、値段が安くても数量を売ればカバーできました。14年4月の消費税増税後は市場の伸びがなくなり、業界全体で利益が出づらくなっています」

 --競争も激しい

 「飲料ビジネスで利益を出すには、各カテゴリーで商品を投入し、カテゴリー内で2位以内に入らなければなりません。3位以下になると価格で勝負しなければならないので、利益を確保しづらくなります。商品力というよりは商品群力を持たないと飲料ビジネスで利益を出すことは難しい」

 --どう勝ち抜くのか

 「従来の発想とは違う新しいカテゴリーを作ることが必要です。他社が強い土俵で戦っても価格競争に巻き込まれるためです。新しい土俵を作っていきます。売れ行きが好調の特定保健用食品(トクホ)『伊右衛門特茶』のような、高付加価値の商品づくりに力を注いでいきます」

 --飲料市場の今後をどうみる

 「人口は減少するが、かつて無料だったお茶も購入して飲むなど消費者の生活様式は様変わりしている。容器のイノベーションなどわれわれが知恵を絞っていけば市場はまだまだ伸びる」

 --飲料業界の再編は

 「考えられるが、飲料専業メーカーはコカ・コーラと当社だけ。他はビールメーカーや製薬会社などがビジネスを手掛けています。各社にとって飲料ビジネスの比重、重要度は異なるため、再編といっても一筋縄ではいかないでしょう」(松元洋平)

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【プロフィル】小郷三朗

 こごう・さぶろう 京大法卒。1977年にサントリー(現サントリースピリッツ)入社後、ウイスキーや飲料のマーケティングや営業などの業務に携わる。サントリー食品インターナショナル専務、サントリー食品インターナショナル副社長を経て、2016年3月から現職。61歳。大阪市出身。

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 ≪DATA≫

 【家族】妻と1男。「妻も関西出身で、首都圏にいながらも家では大阪弁が飛び交う。お好み焼きやたこ焼きといった粉ものが大好きで、休日にはよく作ります」

 【息抜き】お笑いにはうるさい。ひいきにしているお笑い芸人は「すっちー」。「お笑い番組は欠かさず録画し、休日などにまとめて見ています。見ながら私が突っ込み役、妻がぼけ役で掛け合いをしています」

 【健康法】「毎日欠かさず当社の緑茶飲料『伊右衛門特茶』と『超ウコン』、サントリーウェルネスの健康食品『黒酢にんにく』を飲みつつ、サントリービールの『ザ・プレミアム・モルツ』と『角ハイボール』を飲むことです」

 【マーケティング】「伊右衛門」をはじめ、ウイスキーなどの宣伝に長く携わった。「宣伝の仕事は通算11年やりました。消費者サイドにたって伝えることを学びました」

 【好きな言葉】サントリー宣伝部の大先輩で作家の開高健さんの言葉である「森羅万象に多情多恨たれ」。

 「開高さんから直接薫陶を受けたことはないが、宣伝部には開高さんの教えが受け継がれている。この言葉は一つの行動規範になっている」