首都高速道路 道路施設活用し緑のネットワーク

eco最前線を聞く

 □首都高速道路 計画・環境部都市環境創造課 渡部善弘課長代理

 首都高速道路(東京都千代田区)は、社会的な環境意識の高まりから都市にふさわしい環境に配慮した道路事業を進めている。地域社会との共生と景観向上への取り組みはその一環で、3号渋谷線と中央環状線(山手トンネル)をつなぐ大橋ジャンクション(JCT)の換気所屋上に設けた自然再生緑地「おおはし里の杜」はその代表例だ。水循環システムなどの工事監督を務めた計画・環境部都市環境創造課の渡部善弘課長代理は、目の前を流れる目黒川周辺の「昭和初期の原風景の再生を目指した」と話す。

 ◆目黒川の原風景再生

 --おおはし里の杜のコンセプトは

 「東京都心部にある代々木公園や駒場公園などの大きな緑地と目黒川の自然をつなぐ緑のネットワーク構築を目指す拠点に位置付けた。大橋JCTのある目黒区大橋周辺は、東京都による再開発事業、目黒区が進める公園整備事業と当社の道路事業が一体となって、地球温暖化、ヒートアイランド対策、生物多様性への貢献を目指して整備が進められた。おおはし里の杜はその中で『自然再生の緑』を担い、2011年7月に完成した」

 --おおはし里の杜の特徴は

 「大橋換気所は高さが45メートルで屋上の傾斜部は15.6度の勾配がある。この形状を利用して、斜面に木を植え、雨水を使った水循環システムで湧水と川の流れを作り、高さ約30メートルの平面部には池と水田を設けた。目黒川周辺の原風景をモデルに、植栽や池と水田に放ったヤゴ、メダカ、モツゴなどの小生物をこの地域の生物由来とすることにこだわった。ループ状の形状を生かして地上約30メートルのJCT屋上に目黒区と連携して整備した回遊型の『天空庭園』と合わせ、都市部で地域と連携した緑化創出を目指した」

 --整備で重視した点は

 「換気所の施設はコンクリートの塊で、近隣住民には迷惑な存在になる。事業を進める上で環境を重視する近隣の住民の理解を得るのが不可欠だった。このため社外有識者の意見を踏まえ、地域と共生できる整備計画を練った。換気所は雨水を再利用でき、換気所の高さなら外来種が入り込めず、この地域由来の生態系ピラミッドを形成する上で良好な条件がそろう。そこで水田を中心とした緑化空間の整備計画にまとめた」

 --地域とのつながりは

 「おおはし里の杜は現在、年3回、一般に開放している。このほか、地元の目黒区立菅刈小学校の児童に自然とのふれ合いや自然環境保全の大切さを学んでもらおうと稲作体験を毎年実施している。6月3日には5年生46人に田植えを体験してもらった。道路事業は鉄道事業と違い、お客や沿線住民と接する機会が少ない。道路事業を理解してもらうには沿線住民の声に耳を傾けることが大切で、一般開放などはその良い機会となる」

 ◆高架下にビオトープ

 --おおはし里の杜以外の取り組みは

 「06年に開通したさいたま新都心線が通る埼玉県の川口市とさいたま市にまたがる見沼たんぼ地域では自然共生型の都市高速道路を目指し高架下の延長1.7キロ、6.3ヘクタールを、地域生態系を再生するビオトープとして整備した。この地域はかつて、埼玉県の蝶に指定されているミドリシジミが生息していた。幼虫は落葉広葉樹ハンノキの葉しか食べることができず、近隣の小学校と連携してハンノキ林を再生し、ミドリシジミを呼び戻すプロジェクトを推し進めている。今後も未利用地の活用などを通して、引き続き緑化創出に努めていく」(鈴木伸男)

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【プロフィル】渡部善弘

 わたなべ・よしひろ いわき明星大理工学部卒。1994年に首都高速道路公団(現首都高速道路)に入り、東京建設局施設工事事務所でおおはし里の杜の機械設備工事監督に従事。2014年4月から現職。44歳。福島県出身。