中国でエコカー拡大の裏事情 環境よりも補助金・優遇が目的か?
高論卓説トヨタ自動車が新型プリウスPHVの日本仕様車を公開した。昨年発売された新型プリウスのプラグインハイブリッド版で2016年秋に発売される。2.5時間の充電で60キロメートルを電気だけで走れるというものだ。旧型の26.4キロメートルに比べると電気だけで走行できる距離が大幅に伸びた。
ガソリンとバッテリーの両方を使うハイブリッドで走行すれば燃費は1リットル当たり37.0キロメートル。電池のみで60キロメートルの航続距離があるPHVは、日常の足として利用する分にはガソリンより安い家庭用電源の充電で運用できる。電気だけで走行すれば、排ガスも出さない文字通りのエコカーだ。今後、電気自動車(EV)の欠点を補うエコカーとしてPHVの成長が国内外で期待できそうだ。
後述するように中国ではこの60キロメートルの電気での走行が大きな意味を持つ。「世界一の自動車大国」である中国はいろいろな規制と優遇策を組み合わせて、EV・PHV・燃料電池自動車(FCV)の国産化を推進しようとしている。中国ではエコカーは新エネルギー自動車(新エネ車)と称し、国と地方政府が補助金を支給している。
中国自動車工業協会によると15年のEVとPHVの販売台数は33.1万台で世界一となった。ただ、この勢いも16年はやや雲行きが怪しくなっている。15年1~9月の新エネ車の販売台数が13.7万台で、10~12月は19.4万台だった。これに対し、16年1~5月の累計販売台数は前年比では増えているが、12.6万台にとどまる。年初は補助金政策が未確定の部分もあったとはいえ、かなり落ち込んでいるのだ。
15年の33.1万台のうち12.4万台はバスなどの商用車だった。15年は国家と地方の補助金が車長6~8メートルのEVバスに対しても30万元(約450万円)ずつ、合計60万元出ていた。新エネルギー公共バスの普及促進のためだったが、一部のメーカーが16年になって補助金が削減されるのではないかと懸念し、昨年末にかけて性能の高くないEVバスを駆け込みで大量生産・販売したとされる。このため16年の制度は大幅に改正され、そうした性能の高くないEVバスには補助金が支給されないよう技術的な条件を新たに設定した。
中国ではPHV乗用車が新エネ車として国家の認定を受けるには、50キロメートル以上を電気だけで走行できないといけない。北京市ではPHVは新エネ車として認定されておらず、補助金はもとより市内中心部で実施されている末尾ナンバーによる走行規制の優遇も受けられない。
逆に上海市はPHVを新エネ車と認定し、ナンバーを無償で発給するなど優遇措置を実施している。そのため、充電設備を持たない所有者がPHVをガソリンだけで走らせるという“対策”が横行したという。ガソリン車だとナンバー取得に8万元ほどかかるため、多少高くてもPHVをガソリンだけで走らせた方が得だったからだ。急遽(きゅうきょ)、上海市は充電設備の確保をPHV購入の条件とするよう“政策”を変更した。
中国政府は20年までにEV500万台を普及させ、それに見合った充電網を完成させる方針だが、計画は遅れ気味だ。都心部では充電設備が不足しており、EV普及のボトルネックになっている。航続距離の伸びたPHVは、充電設備不足を解消する新エネ車の切り札でもあり、大気汚染を改善する上でも効果が期待できる。早晩、北京市もPHVを新エネ車と認定せざるを得ないのではないだろうか。
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【プロフィル】森山博之
もりやま・ひろゆき 早大卒。旭化成広報室、同社北京事務所長(2007年7月~13年3月)などを経て、14年から遼寧中旭智業有限公司、旭リサーチセンター主幹研究員。58歳。大阪府出身。
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