落日の獅子の隙うかがう昇り龍

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プレミアリーグを制したレスターの選手らを歓迎する地元ファンら=5月16日、英レスター(AP)

 近代スポーツの多くは英国に発祥の源を持つ。とりわけ、サッカーやラグビーなどは英国の“宗主国”意識が高い。

 国際競技連盟(IF)には国として加盟する。しかし、英国だけはイングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドの4地域が別途で加盟し、代表チームをワールドカップ(W杯)に参加させている。

 ◆英EU離脱で変化?

 今回、欧州連合(EU)離脱を決めた国民投票は英スポーツに変化をもたらすかもしれない。すでに、サッカーの世界最高峰、イングランド・プレミアリーグに動揺が広がると聞く。

 EUにあることも手伝い、この人気リーグに多くの人材が集まってきた。外国籍でもEU域内の選手なら、就労ビザは必要ないからである。一方、域外の外国籍選手は、直近2年間の自国代表戦の出場経験が必須だ。国際サッカー連盟(FIFA)ランキングに応じて、世界ランク10位以内ならば代表戦の30%、11~20位は45%で21~30位は60%、31~50位が75%にもなる。英BBC放送は100人超の選手に影響が出ると伝えた。

 EU離脱までには時間的余裕もあり、制度が見直されるかもしれない。ただ、離脱支持が半数を超えた背景には域内労働者の自由移動への不満もあり、例外措置は簡単ではない。

 不確定な要素が多ければ、選手の他リーグへの流出が進む。有望選手が大量流出すれば、放送権料が下落、リーグ運営に黄信号がともりかねない。

 プレミアリーグの放送権料は2016-17年シーズンから3季で95億ユーロ(約1兆809億円)と、独ブンデスリーガの16-17年シーズン(8億3500万ユーロ)とは比べものにならない。この放送権料の50%が各クラブに配分され、選手獲得の財源となる。潤沢な資金で選手を集めて活性化し、さらに放送権料を高く売り、また有望選手を獲得する。この好循環がリーグを支えてきた。

 困惑するプレミアリーグに熱い視線を注ぐ国がある。中国である。08年北京五輪で目覚め、高度経済成長で所得が急増、生活が豊かになった大都市市民には健康志向も手伝い、スポーツへの意識が高まっている。

 中国企業、オーシャンズ・スポーツ&エンターテイメント・マーケティングの最高経営責任者(CEO)、朱暁東氏は電通が共同主催した「アジアスポーツマネジメントセミナー」の席上、実態をこう分析した。

 一つは国の影響力。習近平国家主席がサッカーファンで50年までにW杯を開催すると公言した。市民の目を政治からスポーツに向けさせる狙いか。

 次に教育的な理由だ。一人っ子政策廃止に伴い、スポーツによる人格形成を目指す。

 そして経済的な理由である。サービス産業育成を目指す中国にあって、スポーツ産業の育成は大きな柱だ。いまや、北京や上海市民の平均年収は1万5000ドル(約153万円)から2万ドルにのぼる。時間と金ができてスポーツを見たい・したい・グッズを買いたい、となってきている、と朱氏は説く。中でもサッカー人気は格別だとも…。

 ◆移籍金総額3億ユーロ超

 彼の話を証明するように、中国企業の国際サッカー界への浸透が目立つ。

 不動産業主体の大連万達集団がFIFAパートナー契約を結び最高位スポンサーとなった。ネット通販最大手アリババグループは、トヨタ自動車に代わってFIFAクラブワールドカップの冠スポンサーに名乗り出た。また、ラオックスを支配下に置く家電量販の蘇寧雲商集団が伊セリエAのインテル・ミラノを2億7000万ユーロで買収、中国投資家連合(アリババ、万達など)はACミラン買収に向け、独占交渉を進めている。スペインのリーガ・エスパニョーラは、すでに20チーム中16チームが中国企業の影響下にある。

 16年冬の移籍市場では中国スーパーリーグ所属のクラブが投じた移籍金が3億ユーロを超えた。プレミアリーグの2億4730万ユーロを凌駕(りょうが)し話題となった。

 中国の“爆買い”はサッカー界にまで及んでいる。もしプレミアリーグが隙を見せれば、スーパーリーグがさらに根を広げていくことだろう。

 まさに落日の獅子に昇り龍。中国経済の動向とも関連しているが、英国と香港のように、中国がプレミアリーグを“租借”することさえあるのでは…と思いたくなる。(産経新聞特別記者 佐野慎輔)