「自動運転」初の死亡事故
高論卓説■大ブームで警戒心剥落 冷静に運用検討を
「自動運転が可能になりました」
2015年10月14日、テスラ社は高らかにメッセージを打ち出した。テスラ・バージョン7.0がリリースされ、「オートパイロット」と銘打った自動運転が可能となったというのだ。ソフトウエアのアップデートが完了した「モデルS」は一夜にして自動運転機能を持った先進的高級車に進化したのである。
ソフトウエアのアップデートを通して、自動的に段階的に自動走行も可能なクルマに引き上げていく。それも、公式発表前のパブリックベータ版(ユーザーによる試用)ソフトが提供される。IT産業的な自由な発想には驚かされるが、テスラの革新性に共鳴する若き富裕層は、このような新しい価値観を強く支持してきた。
しかし、このモデルSでオートパイロット走行中に死亡事故が起こり、メディアの注目が高まっている。ハイウエー(高速走行ができる一般道)の交差点で、左に曲がろうとかじを切った大型トレーラーの荷台に、反対車線を直進してきたモデルSが垂直に衝突したのである。モデルSは車体がトレーラーの荷台の下に潜り込む、いわゆるアンダーライド状態となり、フロントガラスを直撃する悲惨な事故となった。
国家道路交通安全局(NHTSA)はオートパイロットシステムの調査に着手した。
なぜブレーキが利かなかったのか原因ははっきりとしない。トレーラーの車体をシステムが標識と錯覚し、その下を安全にくぐり抜けられると判断したとの説もある。カメラとアルゴリズムを提供するモービルアイ社は、横からの飛び出しにはシステムそのものが対応していないと公表している。
運転者に危険回避の行動があったかも不明である。映画「ハリー・ポッター」のDVDが入ったDVDプレーヤーが車内で発見されており、映画鑑賞に気を取られ前方を十分に注意していなかった可能性も否定できない。
そもそも、モデルSを自動運転車と呼ぶのは誇大的かもしれない。国土交通省の定義では、自動化レベル1は「走る」「曲がる」「止まる」のうちの単一機能の自動化だ。一般的な運転支援機能である緊急ブレーキがこれに当たる。複数が自動化されたものをレベル2とし、先進高度運転支援システム(ADAS)と呼ばれる。あくまでも操縦の主体は運転者であり、安全を常時監視し事故への責任を持たなければならない。
レベル3は「半自動運転」である。通常はシステムが自動運転し、運転者が操縦を自ら行うのはシステムの要請があったときだ。そのような状況での事故責任がシステムと運転者のどちらにあるのか、現段階で法整備などが全く整っていない。レベル4は「完全自動運転」となり、運転操作、周辺監視をすべてクルマが操作し、当然、事故責任もシステムに帰属する。
モデルSはレベル1の出口かレベル2の入り口にすぎず、自動運転技術というよりは高度運転支援技術である。正しい知識と適切な運用がなければ事故は起こりうる。
利用者がシステムを過信し、不適切な運用に歯止めがかからなくなっていることが危惧される。自動走行技術は日本の国家戦略の一つ。業界トップのトヨタ自動車も、先陣を切って関連技術へ巨額の資金を投下している。そんな大ブームの中で、業界も消費者も警戒心が剥落しすぎてはいないか。クルマは一歩間違えばとんでもない凶器に化ける。
事故削減、渋滞緩和、高齢者支援など、自動運転技術は多大な社会メリットのある新技術だ。その技術を正しく導くためにも、自動運転の運用に関するガイドラインの検討へ、冷静な見方を取り入れる好機ではないだろうか。
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【プロフィル】中西孝樹
なかにし・たかき ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリスト。米オレゴン大卒。山一証券、JPモルガン証券などを経て、2013年にナカニシ自動車産業リサーチを設立し代表就任(現職)。著書に「トヨタ対VW」など。
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