「やさしい風」扇風機市場に“新風” 高機能と省エネを両立したDC方式
電流の向きが時間とともに周期的に変わる交流(AC)に代わり、最近は直流(DC)のモーターを使った方式の「DC扇風機」商品が充実してきた。価格帯は1万円弱~3万円程度とACよりも高めだが、DCの特徴を生かして微調整した「やさしい風」などの高い機能と省エネを両立。消費者のニーズも高まり、メーカー各社の開発競争が加速している。(大島直之)
静音や微風調節も
DCのモーターは、回転を細やかに制御しやすいのが特徴。ACにはできなかった静音や微風調節などの機能が充実し、消費電力もACの半分以下に抑えられる。
「やさしい風」が消費者に好まれ、平成23年の東日本大震災以降は節電意識の高まりを受けて省エネの特性が注目され、急速に売り上げを伸ばしている。
最初にバルミューダデザイン(現バルミューダ)が22年、DC扇風機の先駆け「GreenFan(グリーンファン)」を発売。3万円以上と高価ながらも話題となり、その後は他社からの参入も相次いだ。
カモメの羽をデザイン
ドウシシャはDC扇風機の高い機能に加え、デザイン性も重視した。
「kamomefan(カモメファン)」シリーズは、エネルギー消費を最小限にして大陸間を長距離移動するカモメの羽をヒントに設計。船舶スクリューの製造会社とも協力し、扇風機に最適な流線型のデザインを生み出した。
空気を切り刻んで不規則なリズムで送風し、不快感や騒音を起こしていたとされる従来の扇風機に対し、同社は「窓からの風よりも涼しく、エアコンほど冷えすぎない」とアピール。高度な技術と省エネを両立させたことで、「高齢者に使いやすく、若い女性にもおしゃれなデザインが好評」(担当者)という。
シリーズ発売後も羽根の素材の樹脂を軽くしなるように改良するなど、進化を続けている。部屋の臭いや菌を除去する機能を備えた商品を薬品会社と共同開発するなど、機能性も高めている。
DC扇風機はモーターなどの主要部品が小さく、自由にデザインしやすいのも強みだ。その特性を生かして、組み立ての不要なタイプや、羽根を真上に向けることができるタイプなども販売している。
広がる用途
DC扇風機の風は到達距離が長く、直線的に進む特性があり、室内に新鮮な空気を広く循環させるサーキュレーターとしての機能も注目されている。
単なる扇風機としてだけでなく、洗濯物の部屋干しや室内の空気入れ替え用などとして購入する客が増えており、各社は「夏以外のシーズンにも売れる」と商機の拡大をはかる。
扇風機大手の山善は、商品の色合いを定番の黒や白だけでなく、淡いピンクやブルー、和室に適したブラウンなど幅広く展開。8千円程度の格安商品も取りそろえる。
担当者は「市場のニーズを細かく調べて消費者がほしい機能に絞りこみ、安くて便利な商品を実現した」と胸を張る。
これまではエアコンなどの影に隠れ、地味な存在だった扇風機だが、いまや各社が機能性やデザインを競って市場に新たな“風”を起こしている。
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