安全保障とエネルギーはイコール

シリーズ エネルギーを考える

 □米カリフォルニア州弁護士、タレント ケント・ギルバートさん

 ■石油危機の43年前に逆戻り

 --東日本大震災から5年以上たちましたが、国内の電力供給に対する不安は解消されたとはいえない状態が続いています。日本のエネルギーの現状をどう見ていますか

 「私は1975年7月から半年間、沖縄で開かれた沖縄海洋博で働きました。日本政府は、72年に米国から返還された沖縄の開発を促進するために、70年の大阪万博と同じ勢いでの開催を計画していましたが、73年の第1次石油ショックで自粛ムードが蔓延(まんえん)。不参加国が増えたほか、参加国もパビリオンの規模を縮小するなど博覧会全体が小型化してしまい、『もったいないな』と思った記憶があります。博覧会終了後に日本中を回った中でも、銀座のネオンが消え、むちゃくちゃさみしくなっていたのを覚えています。その後、日本も原子力発電を本格的にやり始め、中東の原油に以前ほど頼らなくてもよくなりました。一時は原子力比率が3割程度となり、ちょうど良いバランスで健全な状態になったと思っていたのですが、11年の東日本大震災による福島第1原子力発電所の事故で43年前に逆戻りしてしまいました。今も原発の再稼働は一部にとどまっていますが、日本の皆さんは心配しすぎではないかと思います。他の世界の国々はほとんどの原発をそのまま動かしているのに、日本だけが神経質になっているような気がします」

 --日本は地震国ということもあり、原発再稼働には根強い反対があります

 「福島第1原発事故の直接原因は、原子力規制委員会の見解でも、地震ではなく、津波とされています。津波に対する安全対策を万全にすれば、原発の安全性は確保されるはずなのに、リベラル(進歩主義)派の弁護士による原発再稼働の差し止め訴訟が相次いだり、マスコミも含めてちょっとヒステリックになりすぎているような気がします。落ち着きましょうよ、冷静になって話し合いましょうよといいたいですね。最近の電気代を見てくださいよ。電気料金の値上げで、かつてないような水準になっています。原子力の3割がなくなると、電源比率はものすごく偏ってしまい、今は約9割が火力発電で燃料のLNG(液化天然ガス)を海外から高値で買わされているため、電気代に跳ね返っています」

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 ■温暖化対策に原発の活用を

 --米国もスリーマイル島の原発事故を経験しています

 「米国でもスリーマイル島の事故直後には、日本と同じような雰囲気もありましたが、既存原発は動かしましたし、持っているものは使い続けますよ。01年の9.11同時多発テロのあと、当時のブッシュ政権は国家安全保障の観点からエネルギーの中東依存を軽減するため、新規原発の建設を後押しする政策を打ち出しました。しかし、シェールガス・オイルの実用化で米国のエネルギー環境は一変し、新規原発の必要性は薄れました。シェールガス・オイルの開発は、中東の原油価格が安い間は進みませんでしたが、00年代半ば以降に1バレル100ドル前後に高騰し、一気に進展したからです。昨年から今年春にかけて、原油価格が30ドル台に低下したときは厳しかったようですが、また50ドル近くの水準に戻り、再度活性化しています。このため、米国のエネルギー自給率は100%に近づいており、近い将来にエネルギー輸出国になるといわれています。米国議会の多数派である共和党は、地球温暖化問題については、どちらかというと懐疑的な見方をしており、化石燃料とはいえ、潤沢な自前のエネルギー資源を使えばいいとなります。発電コストも天然ガスの方が原子力より安いということもあり、資源を持たない日本とは事情が大きく異なります」

 --ケントさんは、日本人の安全保障意識に警鐘を鳴らしていますが、エネルギー意識については、どう見ていますか

 「自国の領土を自分で守る必要があると思っていない日本人が多い。努力しなくても平和が永遠に続くとね。まさに『平和ボケ』です。現状維持を望み、何もしないことによる『不作為のリスク』ということがあります。日本の不作為は、自分のことだけを考え、他人が流す血と汗に便乗することで、自分たちの安全だけは確保しようとした卑怯(ひきょう)な態度です。本当にそんなことをやったら、国際的な『村八分』になり、資源小国でありながらエネルギー資源調達に支障をきたし、日本経済に混乱を招きかねません」

 「エネルギー問題は、国家安全保障とイコールです。米国はシェールガス・オイルの開発によって中東の原油に頼らなくても良くなったため、中東との関わり方も変化しています。イラクもアフガニスタンも従来はエネルギー資源が絡んでいたため、大きな犠牲を払っても介入せざるを得ませんでしたが、資源国になった今は違います。米国に原油供給を止められた日本が第2次世界大戦に参戦せざるを得なくなったように、これまでの多くの戦争は資源戦争です。中東の安定に対し、米国が関与を薄めつつあるということは、エネルギー資源の多くを中東に依存する日本の外交力が試されることになるわけですが、今の日本のエネルギーバランスでは外交交渉でも不利です。せっかく原子力を持っているのですから、経済や国民生活の安定、国の安全保障のためにも、安全性が確認された原発は使った方がよいと思います」

 --尖閣諸島問題もエネルギー資源が絡んでいるといわれています

 「尖閣諸島周辺海域には、天然ガスやレアメタルなど500兆円もの資産価値のある天然資源が埋蔵されているといわれており、だから中国が領有権を主張し始めているのです。領土の海底資源は日本人として守らねばならないものでしょう。本当は、優れた国民性を持ち、強すぎた日本を弱い国にするために米国から押しつけられた現行憲法を改正すべきですが、先日、安全保障関連法案が成立し、『不作為のリスク』を回避するための一歩を踏み出したことは、良かったと思っています。何でも反対していると、領土だけでなく、資源も含めて、国民の生存権や幸福追求権まで侵害されることにもなりかねません」

 --深刻化する地球環境問題への対応を含めて、将来に向けた日本のエネルギー政策はどうあるべきでしょうか

 「地球温暖化は深刻化していると思います。環境派といわれる人たちは、『温暖化対策を何とかしろ、でも原発はだめ』といいますが、産業も国民生活も昭和初期に逆戻りしろとでもいうのでしょうか。現在持っている原発について、安全性を確認したうえで活用していかなければ、世界の大国である日本経済の維持・発展や国家安全保障に支障をきたすとともに、温室効果ガスを出し続けることになりかねません」

 「ただ、原発を永遠に使い続けることはないと思っています。将来は自然エネルギーでまかなえる時代が来ると信じており、そのための技術開発努力が必要だと考えています。最近、米国の家があるユタ州では、製鉄所跡地に地熱発電所がどんどんできています。豊富な水力発電の電気はカリフォルニア州に売電し、地熱の電気を自分たちで使おうということのようです。どうして日本が地熱開発にもっと力を入れないのか不思議です。勤勉で優れた国民性を持つ日本が、世界最高水準の技術力を生かして、全人類のための新エネルギー開発で世界をリードしていくべきではないかと思っています」(聞き手 神卓己)

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【プロフィル】ケント・ギルバート

 Kent Gilbert 1952(昭和27)年、米国アイダホ州出身。米ブリガムヤング大在学中の71年に宣教師として初来日。80年同大院修了、法学博士、経営学修士。弁護士として就職した国際法律事務所の法律コンサルタントとして来日。弁護士活動の傍らバラエティー番組にレギュラー出演、一躍有名に。その後も日米比較論などの講演活動を行い、最近は慰安婦問題や歴史認識問題、憲法改正で積極的に発言、注目を集めている。著書に『不死鳥の国・ニッポン』(日新報道)、『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』(PHP研究所)など多数。