アサヒビール、缶チューハイ「アサヒもぎたて」(2-1)

開発物語
「アサヒもぎたて」をアピールする開発担当者の宮广朋美さん=東京都墨田区のアサヒビール本社

 ≪STORY≫

 ■新鮮さにこだわり 劣化抑制技術を開発

 アサヒビールの缶チューハイ「アサヒもぎたて」が、市場で存在感を見せている。30~40代を中心に幅広い層から人気を集め、4月の発売開始から約3カ月半で販売数量は300万ケース(1ケースは250ミリリットル24本換算)を突破。販売好調に伴い当初、500万ケースだった初年度販売目標を750万ケースに上方修正した。開発担当者らが3年という長い月日をかけて消費者をインタビューした成果がぎっしりと詰まっている。

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 「ここで何とかしないと大変なことになる」

 アサヒビールのマーケティング本部マーケティング第二部(RTD・焼酎)で缶チューハイや缶カクテルなどのアルコール飲料「RTD」と呼ばれる商品の商品開発に携わる宮广(みやま)朋美さん(33)は危機感を募らせていた。

 「アサヒスーパードライ」を擁するアサヒビールは、国内ビール市場でシェア約5割と他の追随を許さない圧倒的な存在感を放っている。しかし、缶チューハイ市場では、キリンビールの主力缶チューハイ「氷結」やサントリースピリッツの「-196℃」に大きく水をあけられ、業界4位が2011年以降、指定席となっていた。

 もっとも、ビール業界の“雄”であるアサヒビールがこうした状況を受け入れるわけはない。現状を打破するため、約5年前から缶チューハイ商品を強化。「辛口焼酎ハイボール」や「ハイリキ ザ・スペシャル」などの缶チューハイの新商品を次から次へと投入するものの、立ちはだかるライバル商品の壁を突き破ることはできなかった。

 缶チューハイ市場に定着するビッグブランドをつくる。今から約3年半前、社内にはこんな機運が高まり、缶チューハイのビッグブランドづくりのプロジェクトがスタートした。

 プロジェクトを任された宮广さんは、プロジェクトのビッグブランドになりきれなかったこれまでの商品の分析に取りかかった。すると、消費者に「新しさ」や「差別化」などが訴求できていないことが分かった。さらに、肝心の「中身や味」も、つくりきれていなかった。「コンセプトと中身が競合商品を上回る売りになっていなかった」(宮广さん)と振り返る。

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 消費者が求める缶チューハイづくりに向けて同時に進めたのが、消費者へのインタビュー調査などだ。消費者のニーズを深掘りするためで、「RTD商品としてかつてないほどの大規模な調査だった」(宮广さん)というように、約360人にインタビューを実施したほか、4150人以上の定量調査をじっくり3年をかけて行った。看板商品「スーパードライ」の開発時に匹敵するほどの規模だったという。

 消費者の生の声に触れると、缶チューハイに対する不満が透けて見えてきた。それは「味が人工的」「後に甘さが残る」というものだった。

 その一方で、チューハイの理想とする姿も浮かび上がってきた。それは居酒屋で出てくる生搾りサワーだった。

 こうした調査を分析した結果、導き出した商品のコンセプトは「新鮮」だった。新鮮さを具現化した缶チューハイならば、「消費者のハートをつかむとともに、競合商品との差別化も図れるはずだ」(宮广さん)と確信した。

 しかし、「新鮮」を実現するための道のりは決して平坦(へいたん)ではなかった。缶チューハイは製造から消費者に届くまで1~2カ月かかるとされる。このため、居酒屋の生搾りサワーのようなフレッシュ感を出すのは容易ではない。しかも、インタビューでも回答があった消費者が「人工的な味」と感じるのは、劣化臭などが原因とされるからだ。とくにレモン味は顕著に表れるとされており、レモン味の飲料やタブレットでも薬品に似た味になりがちになるという。しかし、裏を返せばこのハードルを乗り越えれば理想とする缶チューハイにぐっと近づくことになる。

 果汁選びには時間をかけた。味の決め手になるほか、アルコールとの相性が悪いと、後味が甘くなったりするからだ。それだけに失敗は許されない。

 たくさんの候補から選びだしたのが、収穫後24時間以内に搾汁した果汁だった。新鮮さの肝ともいえる香気は時間の経過とともに、減少していくからだ。通常、果実は収穫してから2~3日後に搾汁する。しかし、レモンの香気を調べると、収穫当日の100%に対し、3日後では約10分の1の9%に激減するという。

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 新鮮さを実現するための取り組みは果汁だけではない。缶チューハイは製造中に劣化が始まるとされ、製造工程での技術革新にも挑んだ。通常より低温で殺菌することで、果実の香味成分の劣化を抑制する技術「低温殺菌技術」を確立。また、果実の香味成分の劣化を抑止する効果のある天然由来の素材を活用し、香りの劣化を防ぐ技術「香味劣化抑制技術」も開発し、より新鮮な味わいを実現した。両技術とも特許出願中だ。

 宮广さんが商品開発中に最も悩んだのは、商品名やパッケージデザインだったという。商品名は「新鮮」や「フレッシュ」をイメージでき、それでいてインパクトがなければならない。約800案の中から「もぎたて」を選んだ。パッケージデザインは競合商品が横書き、漢字、アルファベットを採用しているのに対し、もぎたてはあえて縦書き、平仮名を採用することで目新しさを強調した。商品化にこぎ着けるまでには開発の着手から約3年の月日が流れていた。

 4月の発売当初、「レモン」「グレープフルーツ」「ぶどう」の3種類だったが、6月末には期間限定で「白桃」を発売。8月末には「オレンジライム」を発売する。宮广さんは「ライバルとの差はまだある。新しい味を展開するなど今後もチャレンジしていく」と意欲を燃やしている。