ソフトバンクの孫社長「アームとスプリントに9割注力」

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買収する英アームと米スプリントに時間の9割を使うというソフトバンクの孫正義社長=7月28日

 ■将来見据え明言

 「アームは圧倒的にソフトバンクの中心中の中心になる」「時間の使い道、これからはアームとスプリントが45%ずつ。残り10%はその他のこと」

 7月28日、ソフトバンクグループの2016年4~6月期決算においての孫正義社長が、買収した英アーム・ホールディングスと、米国子会社の携帯電話事業者であるスプリントについて、注力する姿勢を改めて示した。

 ◆IoT投資に先方共感

 会見冒頭、アームの会長へ買収の提案を行ったのはクーデター未遂事件が発生した直後のトルコでのことだった…と振り返った孫氏。英国の欧州連合(EU)離脱選択や、アーム会長との会見後にトルコでの一件が発生したことなどに触れて、「歴史的な偶然が重なった」と感慨深く振り返る。

 直前にアームの決算が発表され、増収増益だったことを紹介した孫氏は「営業利益率が50%を超えている。このままでも成長するが、2~3年は目先の利益を少し減らしてでも、IoTというパラダイムシフトに向けて先行投資しよう、技術者を増やしましょうと提案したら、(アーム側が)非常に強く共感してくれた」と説明する。

 アームは自社工場を持たず、CPU(中央演算処理装置)のコア技術を開発して、他社へライセンスを供与する企業。主な顧客として、ルネサス・エレクトロニクスやクアルコムなどがある。消費者が手にするスマートフォン、自動車などに搭載されるCPUの大半がアームの技術を利用しているとみられ、孫氏は「スマートフォンの97%に搭載されているのではないか」と説明する。

 さらに孫氏は、アームの主力製品についての解説まで行う。現在はアプリケーションプロセッサーの「Coretex-A」、リアルタイム処理が求められる自動車などに利用される「Coretex-R」、省電力性に優れIoTデバイスなどでの利用に向けた「Coretex-M」があり、さらに2017年には、新製品の「Coretex-A73」が登場し、そのスペックは現在のスマートフォンに搭載される「Coretex-A57」の2倍になると説明する。

 そうした先進的な機能開発は今後も継続し、特許も取得していく、と語る孫氏は「20年後、1兆個のチップがばらまかれる」とさまざまなデバイスにアームのチップが搭載されるという未来図を描き、ハードウエアからコンテンツに至るまでの“総合インターネットカンパニー”になる、と意気込む。

 ◆「シナジー言えない」

 一方で、CPUの内部にあるコア技術という、現在のソフトバンクグループの事業とは遠く離れた分野であるアームとのシナジーを問う声が挙がると「(シナジーがよく分からない)だからいいんです」とにんまり。孫氏は、クアルコムやインテル、あるいはアップルなど、アームとの相乗効果が直接的で、分かりやすい企業が買収に乗り出そうとしても、各国の独占禁止法に触れてしまい、買収できない、と説明。

 またソフトバンクと同じような立場の他社がアームを買収しようとしても、「シナジーが分かりづらい」と取締役会で取り沙汰されて買収できない、とも語った孫氏は「囲碁で、自分の置いた石のすぐそばに次の手を打つのは小学生の囲碁。名人戦だとぽーんと離れた所に置く。(ソフトバンクの既存事業との関連について)つながりを説明する気はないし、競争があるなかでつながりを言うことはできない」と明言を避けた。

 1年前、「必ず改善してみせる。光は見えた」と語っていたスプリント事業について、今回、孫氏は解約率が改善したこと、ドルベースで売上高をみると前年同期から横ばいになったことから、業績悪化は底を打ち、2016年度は黒字へ転換できる、と自信を見せる。

 これまでの会見でも触れていたように、今回もまた、ネットワーク設備の整備によるエリアの拡充、そしてコストカットといった手法を採用していることを改めて紹介。規模としては日本の携帯電話事業よりも大きく、日米合わせれば、米国トップクラスのAT&T、ベライゾンに匹敵する収益源になる可能性がある、とその未来を描く。

 「1年、2年前は地獄のような苦しみだった。早く売りたくて仕方なかった。しかし、今、スプリントの会議が楽しくてしようがない。いよいよ改善が見えてきた。フリーキャッシュフローが改善し、今年初めて、年間を通じて黒字になりそうだ」

 ◆今は携帯が稼ぎ頭

 その一方で、国内の携帯電話事業については「キャッシュフローの一番の稼ぎ頭」と述べて、現時点では最も重要な収益源との見方を示すも、現在ソフトバンクのモバイル事業として1つのブランドになった「ワイモバイル」、1つの子会社と勘違いしてコメントする場面があるなど、関心が薄れていることは隠しきれない。

 これからの時間の使い方も、スプリントとアームに45%ずつ割り当てる方針と明らかにした孫氏。スプリントのチーフネットワークオペレーター(ネットワーク関連の責任者)職は2017年末まで務める意向で、アームについては中長期の戦略に関わっていく方針だという。(インプレスウオッチ)