ベンツとBMW、日本を舞台に真逆の販促策で勝負 両社の狙いは?

 
BMWの大型販売拠点「BMWグループ東京ベイ」に展示された車両=6月、東京都江東区

 ドイツを代表する2大高級車メーカーが、日本で正反対な新車の売り方に乗り出した。メルセデス・ベンツは東京都内の書店内に、VR(仮想現実)でクルマの外観や内装を確認できるショールームを開設。BMWは、グループのほとんど全車種を一つの施設内で試し乗りできる初の販売拠点を都内に新設した。ドイツの永遠のライバル同士が車の魅力訴求に「仮想」と「現実」という真逆のアプローチを使って、日本を舞台に“ガチンコ勝負”だ。

 車ないショールーム

 ベンツの日本法人「メルセデス・ベンツ日本」は7月13日、東京都渋谷区の代官山蔦屋書店の店舗内に車を置かないショールームをオープンした。書籍売り場に併設されたラウンジに担当者が常駐。来場客には専用のゴーグルを装着してもらい、VR空間で車の内外装をチェックしてもらう。

 そこで興味をもった客には同店の駐車場に用意された車両への試乗を勧め、最終的には販売店へと誘導するという実験的な取り組みだ。今回、ベンツが車を置かない仮想ショールームを設けたのは、もっと気軽に車両へ接してもらう機会を増やす狙いからだ。

 ベンツの国内の販売店は顧客に「敷居が高い」(ベンツ日本の上野金太郎社長)と思われていることが多いといい、実際にジーンズにTシャツでは入りにくい。顧客に気楽に来店してもらえるよう、既にベンツは東京・六本木と大阪・梅田に車を展示するだけのカフェをオープンしており、今回の仮想ショールーム開設もその流れの一環だ。

 とくに仮想店舗は、限られたスペースでも展開が可能なため、今回の取り組みが一定の成果を上げれば、他の施設にも同様のショールームを設置する可能性があるという。

 ベンツが「仮想」現実を使い、脳の感性に直接訴えかける新たな売り方に挑戦する一方、現実世界の「リアル」な車を操る楽しさを訴求する販売手法の強化に乗り出したのがBMWだ。

 BMWの日本法人は7月8日、東京都江東区の臨海副都心地区に大型の販売拠点「BMWグループ東京ベイ」をオープンした。敷地面積は約2万7000平方メートルで、駐車場部分の約5000平方メートルは訓練走行に使えるようにし、雨天での運転を想定した訓練などができる本格的な設備となっている。試乗車は、BMWと、グループのMINI、二輪車ブランド「BMWモトラッド」の全現行モデルを用意。平日夜に仕事の後に走れるよう夜間照明も設置した。この施設で気軽に試乗してもらいBMWのデザインや内装、走りのファンになってもらい実際の販売につなげる狙い。カフェや最大400人収容の会議用ホールも併設しており、年間約30万人の来場を見込んでいる。BMWグループ日本法人のペーター・クロンシュナーブル社長は「将来の販売拠点の代表例になる」と話している。

 若者掘り起こし

 ベンツとBMWが、日本のメーカーに先んじて、車を置かないバーチャルショールームや超巨大な体験型販売拠点を日本に設けたのは、新たな取り組みを通じて若者など新規顧客の掘り起こしが進められるとみているからだ。両社の顧客層は、中高年の富裕層が多く、しかも「指名買い」が多い。ただ、ベンツ、BMWに乗ることをステータスとするこうした購買層に対し、そもそも車自体への関心が薄い若年層へのアプローチには苦慮しており、こうした潜在顧客にどう訴求するかが日本事業の今後を左右しかねない状況にある。そこで両社は、新たな売り方へのチャレンジに活路を求めたというわけだ。

 ベンツの場合は書店に立ち寄った“ついで”に車両をみてもらい、BMWは実際に多くの車種に乗ってもらうという、手法は異なるが車のカッコ良さを存分にアピールする取り組みを通じて、来店客に心底ほれこんでもらい、新車販売の拡大につなげる考えだ。(今井裕治)