FOMM 独自コンセプト「水に浮く」異彩のEV開発

神奈川発 輝く
開発中の次世代小型電気自動車を囲む社員には、やる気がみなぎる=川崎市幸区のかわさき新産業創造センター

 ベンチャー各社がこぞって開発を進める小型電気自動車(EV)の世界で、「水に浮く」というユニークなコンセプトで異彩を放つ小型EVメーカー「FOMM(フォム)」。大手メーカーで二輪車開発、1人乗りEVの企画・開発などに携わり、キャリアを重ねた鶴巻日出夫社長(54)が独立を決めたのは、「少しでも多くの人に快適な4人乗りのEVを提供し、EVの魅力を知ってほしい」という熱い思いがあったからだ。

 JR横須賀線新川崎駅から歩くこと10分。多くのベンチャー企業が入居し、FOMMのオフィスも入る「かわさき新産業創造センター」が目に入る。オフィスとは別に、敷地内のガレージには、開発中の小型EVが3台並び、開発スタッフがさまざまなチェックを行っていた。

 鶴巻社長は根っからの技術者だ。小学生時代に、学研の学習雑誌「科学」の付録を自己流に作り込むことに熱中。父親のバイクを借りて乗り、「こんなに簡単に坂を上れるなんてすごい」と感動したことがエンジニアの道へ進ませた。高等専門学校卒業後は、スズキに入社。大好きな二輪車の開発を行いながら、趣味としていたモトクロスバイクで、会社が関わる海外レースの対応も担った。

 ◆二輪から小型車へ

 その後、EV開発のため二輪車開発経験のある人材を募集していた自動車内装部品メーカー、アラコ(現・トヨタ紡織)に転職。ここからEVと関わる人生がスタートし、トヨタ車体(愛知県刈谷市)では1人乗りのEVを手掛けた。さらに移籍したSIM-Drive(シムドライブ、東京都千代田区)では、3人乗りの小型EV企画を進めたが、開発を主体とする同社での量産化が望めなかったため、独立を決意する。

 起業当初から苦難の連続だった。自己資金が少ない中、当てにしていた出資予定者から見送りの連絡が創業初日に入っていきなり窮地に。

 それでも、事業趣旨に賛同してくれたベンチャーキャピタルや、シムドライブ在籍時に担当者と面識があった大同工業や日本特殊陶業から出資を獲得することができた。鶴巻社長は「今でこそ笑い話だが」としつつ、「『出資が得られなかったら、会社を畳みなさい』と妻に言われ、最初の3カ月は針のむしろだった」と振り返る。

 ◆東日本大震災で転機

 独立して開発しようとしたきっかけのもう一つの理由は、東日本大震災の津波の猛威だ。静岡県磐田市内の海沿いに暮らす母親は足が悪く、「いざというとき、気軽に移動でき、最悪、周囲が水没しても浮いて、推進するEVを作りたいと思った」。

 水に浮かせるため、ボディーをつなぎ目のない一体成形のカプセル構造とすることでクリア。大隣幸範開発部長(54)は「あくまで緊急用の機能だが、タイヤのホイール部分にスクリューの役割を持たせて推進できるようにした」と話す。

 もう一つの特徴は、既存車のように丸ハンドルではなく、手元でアクセル操作ができ、足の操作はブレーキのみにした点だ。「テレビゲームをしているみたいで面白いという感想もいただいている。車離れしている若者をこの車でもう一度引き戻せたら」。鶴巻社長はこう語る。

 まずは、海外での製造、販売からスタートするが、量産が軌道に乗れば、逆輸入で日本国内を疾走する日もそう遠くなさそうだ。(那須慎一)

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【会社概要】FOMM

 ▽本社=川崎市幸区新川崎7-7 かわさき新産業創造センター本館214号  (電)044・200・4020

 ▽設立=2013年2月

 ▽資本金=5億348万900円(16年7月時点)

 ▽従業員=15人(同)

 ▽売上高=非公表

 ▽事業内容=小型電気自動車の開発・製造

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 □鶴巻日出夫社長

 ■量産化へタイ投資会社と提携

 --新規参入に向けてのハードルは

 「取引先などには、年間1万台体制にすると説明していたが、当社の現在の規模ではなかなか信認を得られず苦労が多かった。ただ、台湾や韓国、中国の取引先は『喜んで協力します』というスタンスで、部品や部材の値段も安価に抑えてくれるなどの利点もある。このため、最初からグローバル展開を目指すことにした」

 --製品開発を進める中で難しさはどこにあったか

 「さまざまな面で難しい面があったが、特に、これまでドア設計の経験がなかったため苦労した。ドア回りは機能部品の集合体で設計などが難しい。当初は、スライドドアにするつもりだったが、現行モデルでは普通に横に開け閉めする『ヒンジドア』を採用した。開発開始から3年目でドアの部分もようやく形が見えてきた」

 --今後の事業展開は

 「来年9月の量産化開始に向け、タイの投資会社のグループ企業と提携した。まずは、タイで量産化し、タイ国内で販売する。2018年以降は、ASEAN(東南アジア諸国連合)各国や欧州へ輸出を開始する計画で、実現すれば万単位の量産につながるとみている」

 --今後の新車開発のアイデアは

 「今はベーシックタイプを開発しているが、車種の展開はどんどんやっていきたい。次に投入したいのは四輪駆動のスポーツタイプ。2シーターでドアが上部に開くガルウィングドアを採用する。すでに、設計を始めており、来年タイで開かれるバンコクモーターショーに出品したい。また、タイのリゾート地で、タクシーのように乗り降りしやすいタイプのEVの要望もあり、扉はなくゴルフカートのようだけれども、高級なイメージの製品も開発したい」

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【プロフィル】鶴巻日出夫

 つるまき・ひでお 東京都立航空高専卒。1982年に鈴木自動車工業(現・スズキ)入社。その後、アラコ、トヨタ車体、SIM-Drive(シムドライブ)で小型電気自動車の企画や開発に従事。2013年にFOMM創業。54歳。静岡県出身。

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 ≪イチ押し!≫

 ■街乗り想定「Concept One」

 「FOMM Concept One」は、FOMMが量産化を進める4人乗り小型電気自動車(EV)。白色をベースに、センターを黒色で塗装したスタイリッシュなデザインにした。最高時速は85キロ、走行距離はエアコンを使わない場合、約150キロと、主に街乗りを想定している。

 全長は約2.5メートル、総重量は820キロとコンパクトだが、走りや乗り心地を追求。カーブをキビキビと曲がれる走行性や、気温の高い海外での需要に応えるためエアコンを搭載するなど快適性にこだわった。また、緊急時には水に浮き、ホイールが水をかいて推進する機能を持たせている。

 自社生産ではないモーターなどの価格が高いというネックがあるものの、量産時の価格は100万円程度(バッテリー除く)に抑える計画だ。