CO2を地下に封入 CCSの実証試験が始まった
視点□産経新聞論説委員・長辻象平
日本でも、ついにCCSの本格的な実証試験が始まった。
CCSは、地球温暖化防止のための二酸化炭素(CO2)排出削減の切り札として世界で注目されている技術である。
火力発電所などから大気中に放出されるCO2を回収し、地下深くの地層に押し込んで閉じ込めるという力業だ。
“Carbon dioxide Capture and Storage”の頭文字を並べてCCS。
その実証試験は、北海道苫小牧市の太平洋に面した臨海工業地帯の一画で行われ、今年4月から海底下の地層中へのCO2の圧入が開始されている。
取り組んでいるのは、株式会社の日本CCS調査(東京都千代田区)の苫小牧CCS実証試験センターだ。
2018年度末までの3年間で30万~60万トンのCO2を、目の前の太平洋の海底下1100~1200メートルに広がる砂岩層と、より深い2400~3000メートルの火山岩層に押し込んで貯留する計画となっている。
手始めの圧入は砂岩層へ。その深度の地圧に負けない約100気圧の圧力を地上の設備でCO2にかけ、圧入井(せい)のパイプを通して地下に送り込んでいる。
高圧のCO2は、気体と液体の間の「超臨界流体」という状態なので、砂岩の隙間を満たしている塩水を押し出しながら浸透しやすいという利点がある。液体の密度と気体の流動性を併せ持つためだ。
CCSは、石油掘削から派生したという歴史を持つ。枯渇寸前の油田にCO2を押し込んで、石油を残らず絞り出すという既存技術(EOR)の応用なのだ。米国などで半世紀前から実施されてきた。
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このCCSの実施には、隙間の多い砂岩や火山岩から成る貯留層の直上に、緻密で流体を通しにくい泥岩の遮蔽層が存在していることが必要だ。貯留層に入れたCO2が漏れ出さないよう遮蔽層が蓋の役目を果たす。苫小牧の沿岸部にも、こうした地層構造が存在しているのはもちろんだ。
ところで、日本でのCCSによるCO2の貯留可能量だが、1400億トンという見積もりがある。日本の排出量は年間約13億トンなので100年分に相当する規模だ。
数年前のことになるが、政府の審議会でCCSの導入に難色を示した委員がいた。理由は「削減力が巨大過ぎるので、国民の間での地道な削減意欲が損なわれる」ということだった。それほどの圧倒的な削減力を秘めた技術なのだ。
地球温暖化防止の枠組みとして昨年、採択された「パリ協定」では、今世紀末の気温上昇を産業革命前に比べて1.5℃未満を目指しつつ、2℃未満に抑えるという国際合意に達している。
この「2℃目標」の達成には、2050年に世界のCO2排出量の半減が必要なので、CCSへの期待度は高いのだ。
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だが、CCSが地震の引き金を引くのでないかと心配する声もある。
活断層による被害地震が起きる深度は、CCSの貯留層よりも1桁深い所なので、両者の関係はなさそうだが、不安の声を無視して進めることは難しい。
苫小牧での実証試験でもCO2の圧入で地震が誘発されることがないことを証明するための観測網を敷いている。
その一方で、大地震に襲われても地下に貯留したCO2が漏れ出したりしないことは、新潟県中越地震(04年10月)と新潟県中越沖地震(07年7月)で実証済みなのだ。
2つの地震に先行し、地球環境産業技術研究機構(RITE)が03年から1年半をかけて新潟県長岡市内の陸域の地下1100メートルの砂岩層に1万トンのCO2をCCSの予備試験として圧入していたのだが、地震の影響を受けなかったことが確認されている。
長岡のCCSサイトは、世界で唯一、強い地震に見舞われた場所なので、堅牢(けんろう)性を示す貴重なデータとなっている。
CCSの導入については、コストをめぐって政府内でも積極論と消極論があるのが現実だが、すでに世界の潮流となっている。
日本として自前の技術と情報を持っておくに越したことはない。
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