マツダのデザイナーが語るボディカラーと『匠塗』の秘密 ソウルレッドはこうして塗っていた

 
六本木ヒルズに展示されたマツダの人気車種。カラーはもちろんソウルレッドとマシーングレー

 自動車メーカーのマツダが7月下旬に、東京都港区の六本木ヒルズで「Be a driver. Experience at Roppongi」を開催した。ファンを招待して行われたトークセッションでは、同社のカラーデザイナー、岡本圭一氏が「マツダの考えるボディカラーとは?」をテーマに、人気色のソウルレッドや新色マシーングレーに対するこだわりや美しさの秘密を披露。『匠塗(たくみぬり)』と呼ばれる独自の塗装技術についても語った。(文・写真 大竹信生)

「カラーも造形の一部」

 ここ最近のマツダといえば『魂動(こどう)デザイン』が有名。これは“クルマに命を吹き込んで生命感を出す”というマツダの新たなデザイン思想で、そこから生まれたのがソウルレッドプレミアムメタリックというマツダの特別塗装色だ。

 マツダのカラーデザイナー、岡本氏もソウルレッドの開発に携わった一人。『魂動デザイン』を象徴するテーマカラーを作りたいという狙いから、ソウルレッドの開発がスタートしたという。一般的にホワイトやグレーといったニュートラルカラーが支持される中、マツダではここ半年を見てもソウルレッドが一番人気だそうだ。

 『魂動』のシンボルであるソウルレッドにはどんな思いが込められているのだろうか。岡本氏は、今回のイベントに当選した来場者の視線を一身に集めながらこう語った。

 「マツダは『カラーも造形の一部』だと考えています。本当に美しい造形を極めるためには、色も例外ではないという考え方です。美しい形状を余すことなく表現することを念頭に開発してきました」

 では、それをどうやって表現するのか。「ポイントは『光』と『影』をできる限り美しく表現することです。形状が決まってから色をマッピングするといった単純な色味の創作ではなく、造形を綺麗に見せるために質感表現にこだわって開発するのがマツダの特徴です。従来は“鮮やかな赤”が美しいとされてきましたが、我々は造形を際立たせて美しく見せるために『鮮やかさ』と『深み』の両立を目指してソウルレッドを開発してきました」

 そもそも、なぜ赤を選んだのか。転機となったのは1980年に発売した5代目ファミリアだ。(※写真3)

 「1970年代のオイルショックの影響で、マツダは危機的状況にありました。『会社を挙げてファミリアを成功させないと危ない』と全社一丸となり、カラーも相当強い思いで開発しました。まったく新しい顔料で鮮やかな赤を作ったらものすごい人気になって、ここで一回“赤ブーム”が来たんです。以降、我々は常に新しい赤を作ってきました。マツダはやっぱり赤だよね、ということで『魂動』も赤を選んだのです」

マシーンに対するマツダの思い

 トークセッションが行われたスタジオには、特別色の第2弾となる新色マシーングレーに塗られたアクセラが展示されていた。この色は金属の緻密な質感表現にこだわって開発されたという。(※写真4)

 マツダといえばロータリーエンジンやスカイアクティブ・テクノロジーの開発など、いつの時代も独自性を持ってクルマ作りに取り組んできたことから、マシーン(機械)に対して非常に思い入れが強い会社だそうだ。そんな会社の思いをカラーに託そうと、マシーングレーを開発したという。

 「この色はまず、精巧な機械の美しさをダイレクトに表現することをポイントにスタートしました。金属は光が当たると『面』で光るといった特徴があります。フォルムの角度が変わればグッと陰影感が出て、硬質な美しさを見せます。そういった金属の質感を塗料で表現したいと思い開発しました」

 『クルマはただの鉄の塊ではない。命あるものであってほしい』といったマツダの思想は、マシーングレーにもしっかりと宿っている。

 「生命感はカラーでも表現したいと考えています。そのために、表面の処理はできるだけ瑞々しい艶感を狙って色を作りました」

 マシーングレーは「鉄」をイメージして開発された。あらゆる金属の中から鉄を選んだ理由は何だろうか。実はそこにも質感表現に対するこだわりがある。

 「まず、マシーンは本来、鉄から作ってきたので、我々にとって原点に立つという意味があります。また、鉄は精密な加工をすると、精緻感のある美しい表情を出します。加工の仕方によっては、とても暖かみのある色になります」

 「アルミは先進的なイメージがありますが、白っぽく光ってしまいます。我々は造形の陰影感を極めることに注力しています。それを鉄の黒光り感で表現したいという思いから、鉄の表情にこだわりました」

量産ラインで行う『匠塗』

 たくさんのこだわりと思いを込めて開発したカラーをクルマで表現するには、かなり特殊な塗装方法が必要となる。ソウルレッドの「鮮やかさ」と「深み」の両立、マシーングレーの「機械の美しさ」、2つの色に共通する「陰影感」を表現するために、これら特別色をどうやって塗っているのだろうか。これを可能にしているのが、まるで職人が一台ずつ手塗りしたかのような色合いと質感を量産レベルに持ち込んだ、マツダ独自の塗装技術『匠塗』だ。

 一般的な自動車の塗装は、鉄板ボディの上に色味として見える塗料を塗り、その上に透明のクリア層を重ねるツーコート(2層)構成だ。ソリッドと呼ばれるシンプルな赤色を塗る場合は、塗料に赤の顔料を用いる。これをメタリックの赤にする場合は、赤の顔料に光輝材としてアルミフレークを混ぜ合わせるのだ。通常はこのアルミフレークが様々な方向を向いた状態で固まるので、光が当たった時にいろんな方向に反射するのが一般的な輝き方だ。

 これに対してマツダの特別色は、レイヤーを1枚増やした3層工程にしている(※写真5)。マシーングレーの場合は、基本色となる黒をボディに塗る「カラー層」、アルミフレークを噴き付ける「反射層」、仕上げの「クリア層」のスリーコートで構成しているのだ。岡本氏はマシーングレーを例に、一般的な塗装との違いをこう説明する。

 「まず我々は、反射層に光が当たった時に一定方向に光るように、アルミフレークを均一に並べる技術を開発しました。アルミフレークがランダムに並ぶと乱反射が起きて光が粒状になりますが、均一に並べると一つの塊として輝くので、先ほど述べた金属の『面』の輝きを実現できます」(※写真6)

 「カラー層には漆黒を使い、反射層はアルミフレーク同士の間を少し開けて設計しています。これにより、フレークの隙間を通過した光はカラー層の黒に吸収されるため、鉄のような黒光り感を実現しています」

『鮮やかさ』と『深み』は両立しなかった

 では、ソウルレッドは、マシーングレーとどこが違うのだろうか。

 「これまで『鮮やかさ』と『深み』の両立は、量産においては困難とされていました。鮮やかなソリッドにアルミフレークやマイカを混ぜて深みを出そうとすると、どうしても鮮やかさが失われてしまいます。では、それをどう打開したのか。塗膜構成はマシーングレーと似ていますが、ソウルレッドは1層目に赤の顔料とアルミフレークを乗せて、2層目に“透明度の高い”赤い顔料の膜を作りました。光がボディに当たった時に、2層目を通った光が1層目で反射して、再び2層目を通過して帰ってくるので、我々は鮮やかで深みのある赤い反射を見ることができるのです」(※写真7)

 どちらの色もアルミフレークを均一に並べる技術が必要となるが、マツダではアルミの粉をどのように平らに並べているのだろうか。アルミの平滑化は『匠塗』の中でも相当重要な工程となるはずだ。

 「これは一例ですが、マツダは非常に薄いアルミを採用しました。これを噴いた直後は通常の塗料と一緒で、まだ光輝材と顔料がランダムに並んでいる状態ですが、ここから次の工程に流れる間に『体積収縮』という技術を利用して、塗装面の膜を押し付けるようにシュッと薄くします。これによってアルミが平行に並んで金属フィルムのような状態になるので、光がすべて同じ方向を向くことで『面』で光らせることが可能になるのです」(※写真8)

熟練した職人でも手塗りは難しい

 アルミを含んだ反射層の薄膜化は、熟練した職人でも手塗りするのは非常に難しいという。

 「手作業の場合は、微粒子を噴いて薄い膜を1枚ずつ引き、クルマ全体に丁寧に塗っていきます。塗り終えたら乾かして、時間をおいてまた塗るという作業を繰り返す。このようにとても時間の掛かるやり方でアルミをフラットに並べます。我々はこの作業を量産ラインの中で、手塗りと同じ表情を持つカラーを工業的に塗装する技術に挑んだのです」

「マツダのカラーは品がある」と女性ファン

 今回のトークセッションには、2人で来たという若い女性の姿もあった。非常に気になったので、イベント終了後に話を聞いてみた。

 「マツダが好きで応募したら当たりました。マツダのカラーには品があって、デザインともマッチしていて格好いいと思います。マシーングレーもソウルレッドも深みがあって大好きです」

 いまやマツダのシンボルカラーとなり、男女問わず多くのファンを魅了しているソウルレッド。そして今回、満を持して投入した新色のマシーングレー。六本木ヒルズではロードスターなど複数の車両を8月28日まで展示している。『カラーも造形の一部』-。そんなメッセージを意識しながら、マツダのカラーに対するこだわりと『匠塗』に触れてみてはいかがだろうか。

■マツダのカラーデザイナーに聞く 「とにかく独自性を」「会社の思いを色で表現」