家事代行サービス、低価格で新業態続々 市場6倍拡大?人手不足解消へIT活用
共働きや単身世帯の増加で需要の高まる家事代行サービスで、新たなビジネスモデルが相次ぎ登場している。今後、市場規模が6倍になるとの試算もある中、最大の課題は働き手の確保。ネット上で家事を頼む人と引き受ける人をマッチングするシェアリングエコノミー型や、人材サービス会社が派遣登録者の空き時間を生かす隙間時間活用型など、ITを駆使したり採用を効率化したりして低価格を実現しているのも特徴だ。
「フィリピン出身で来日20年。子供が大好き。介護福祉士の資格あり。TOEICは840点で英語も教えられます」
登録を済ませてスマートフォンを開くと、最寄り駅から対応可能な家事代行者「タスカジさん」の一覧が表示される。掃除、洗濯、料理など家事の項目や利用料のほか「レビュー」とされる利用者の口コミも閲覧できる。
頼みたいタスカジさんのプロフィルページから、空いている日時と作業内容を選んで依頼ボタンをクリック。予約が確定すれば相手からメールが届く。
個人と個人仲介
ブランニュウスタイル(東京都港区)が2年前にスタートさせた「タスカジ」は、家事代行を頼みたい個人と引き受ける個人をマッチングするサービスだ。社員を雇って家事代行サービスを行うのではなく、フリーランスの家事代行者を紹介する「場」を提供する。
現在「タスカジさん」には約300人が登録。半数は外国人で英語教育にも人気だ。利用件数は前月比2ケタ増を続けている。1時間当たり1500~2600円の利用料のうち20%が同社への手数料だ。
「安く頼める個人のハウスキーパーを必死にネットで探した経験から、マッチングの場があれば見つけやすいし安心と考えた」と和田幸子社長はいう。タスカジのサービスは、モノや不動産、人手などの貸し出しをインターネットで仲介する「シェアリングエコノミー」型だ。
個人と個人を仲介する「家事のシェアリングサービス」としては、2013年に開業のエニタイムズ(東京都港区)も利用者が約2万人に達し成長中。ペットの世話や付き添いなど家事の範囲も広がりを見せている。
「クラウド家事代行」をうたうのは、2年前に子育て中の男性3人が創業したカジー(東京都千代田区)。「働けるときに働く」人材を集め、スタッフの85%が主婦業や自営業者など別に仕事をもっているダブルワーカーだ。ITを駆使し、スタッフの対応可能な時間と顧客ニーズをデータベース管理し、マッチングを行う。
申し込み手続きはスマホで完結する。ネットを通じて仕事を受発注する「クラウドソーシング(群衆委託)」という方式だ。営業や管理コストをスリム化したことで、1時間当たり2190円~という低価格を実現させた。加茂雄一社長は自身の体験から「見積もりに時間がかかる、直前予約ができないといった従来サービスにありがちな不便さを、ITの活用で解決した」と説明する。
「インフラ」目指す
政府による女性活躍推進や共働き家庭の増加もあって、家事代行サービスの注目度は近年ますます高まっている。経済産業省は12年度で約1000億円の市場が、将来的には6倍に拡大すると推計している。
しかし労働力人口の減少で、サービス業を中心に人手不足は深刻化。シェアリングエコノミーやクラウドソーシングといった新たなビジネスモデルの登場には、需要の高まりと人手不足のギャップを解消する狙いもある。
全国家事代行サービス協会副会長で、1999年創業の家事代行サービス会社ベアーズ(東京都中央区)専務の高橋ゆきさんは、新たなビジネスモデルの相次ぐ市場について「新規参入は既存の会社の競合ではない。むしろ一枚岩となって、家事代行サービス業を社会インフラとして確立する時期」と、活性化を歓迎する。
というのも、日本人家庭では「他人が家に入ることへの心理的抵抗」が強く、11年時点でサービス利用者がわずか2%(野村総合研究所調べ)にとどまるなど、家事代行サービス利用の歴史は浅い。「産後に利用したかったが、どの社がいいのかわからない」(東京都新宿区の30代会社員の女性)といった声は依然として多い。
こうした利用への心理的なハードルを低くしようというサービスが、人材サービス会社インテリジェンスの「ショコラ」だ。「勤務先の福利厚生なら抵抗感が和らぐのでは」と、法人向けに目を付けた。利用企業は育児や介護と仕事の両立支援策にショコラを導入。社員向け福利厚生として、その企業で働く社員は、掃除や洗濯といった家事代行サービスを2時間5000円程度(企業によって異なる)で利用できる。
同サービスでは、インテリジェンスが手がける派遣事業の派遣登録スタッフを、家事代行者として活用。平日昼間にオフィスで働く派遣スタッフのうち、終業後や週末の空き時間に「もっと働きたい」という人に研修を実施し、人材確保と採用コスト圧縮につなげている。
インテリジェンスによると、現在は大企業から中小まで16社がショコラを導入しており、秋には利用の大幅増を見込む。
野村総研の武田佳奈主任コンサルタントは、「相次ぐ新規参入業者は市場の拡大を牽引(けんいん)するプレーヤーの一つになるだろう。利用者にとってもサービスの選択肢が増えることのメリットは大きい」とみる。
ただ「利用経験者が少ない中での新たなビジネスモデルの出現で、サービスの違い、契約相手が個人なのか企業なのかといった理解が進んでいない面がある」と指摘。企業側の情報提供に加え「国や業界団体による情報発信や基準策定も必要となるだろう」と提唱している。(滝川麻衣子)
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