自動運転車関連法律の整備急務に

Bizクリニック

 □グローウィル国際法律事務所代表弁護士・中野秀俊

 米フォード・モーターは2021年をめどに、ステアリングやアクセル、ブレーキなどがない完全自動運転車を量産する。日本でもトヨタ自動車が自動運転タクシーを開発。イオンは幕張新都心に隣接する豊砂公園(千葉市美浜区)で無人運転バスの試験運行を行うなど、自動運転車が現実味を帯びてきている。これに伴い自動運転車の法律問題の整備が急務となってきた。

 自動運転車について、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)がまとめた「官民ITS構想・ロードマップ2016」は以下のように分類している。

 レベル1「単独型」=加速・操舵・制動のいずれかの操作をシステムが行う状態

 同2「システムの複合化」=加速・操舵・制動のうち複数の操作を一度にシステムが行う状態

 同3「システムの高度化」=加速・操舵・制動をすべてシステムが行い、システムが要請したときのみドライバーが対応する状態

 同4「完全自動走行」=加速・操舵・制動をすべてシステムが行い、ドライバーが全く関与しない状態

 最も問題になるのは、自動運転車が事故を起こしたときの刑事上の責任だ。レベル1、2は一部をシステムが補助する仕組みで、運転者に周囲の道路交通状況などの監視(モニター)義務が課され、事故などの場合、法律上の責任は原則、運転者にある。

 一方、レベル3は人間とシステムとの間の役割分担を検討する必要がある。システムが要請していたのに、運転者が対応せずに事故が起きた場合には、運転者が責任を負うことになる。

 運転者が操作に全く関与しないレベル4の事故は、自動運転車メーカー、人工知能(AI)機能の開発者が責任を負うなどの議論がある。警察庁が日本能率協会総合研究所に委託してまとめた「自動走行の制度的課題等に関する調査研究報告書」では「道路交通法等を含め、事故時の責任関係のほか、運転者の義務等の在り方について検討」という表現にとどまっている。

 民事上の責任も問題になる。自動運転車に欠陥があり事故が起きた場合、日本ではメーカーの製造物責任が問われるだろう。ただ、自動車自体の欠陥が明らかでない場合、現在の民法や製造物責任法では、被害者が加害者側の過失か製造物の欠陥を立証する必要があり、立証できないと賠償請求できない。技術面の理解に乏しい被害者が完全自動運転車に欠陥があることを立証することは困難で、警察庁委託の報告書でもこの点が問題視されている。(この項おわり。次回から、つながりバンクの齋藤由紀夫社長が中小企業のスモールM&A=企業の合併・買収=について執筆します)

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【プロフィル】中野秀俊

 なかの・ひでとし 早大卒。2009年から法律事務所勤務。11年にフロンティア法律事務所移籍。16年4月にグローウィル国際法律事務所を設立し現職、同時に企業経営の課題を解決するみらいチャレンジを設立し代表取締役。大学の時にIT関連で起業した経緯から、IT・ウェブ企業の法律問題に精通している。32歳。埼玉県出身。