東芝、PC開発・製造の心臓部を初公開(下) 中国人スタッフを徹底教育
PC Watch東芝のPC製造拠点である「東芝情報機器杭州社」(Toshiba Information Equipment Hangzhou:TIH)では、PC製造ラインにおいても、数多くの工夫や効率化、品質向上のための取り組みが盛り込まれている。現地の中国人スタッフに対する取り組みも興味深い。中国での生産というと、現地労働者を安く使い、コスト削減を狙うというイメージがある。だが、TIHでは、現地での人材確保とその育成に並々ならぬ投資を行っているのだ。
地元学校と連携
13億の人口を有する中国においても、大学進学の拡大や出生率低下などで若い人材を確保しにくくなっている。また、採用しても、日本よりも定着率が低いという問題がある。そこでTIHでは地元の学校と連携し、希望者には授業で会社の文化や作業知識を事前習得する「東芝クラス」という機会を提供している。
2012~13年にかけては全国6省市に8つの東芝クラスを設置し、14~15年には15クラスに拡大した。これにより、これまで約1500人の東芝クラス出身者がTIHに入社し、その離職率は従来の半分にまで改善されたという。
入社後にもさまざまな教育や啓蒙(けいもう)を行い、能力や就業モチベーションを高めている。日本にはあまり見受けられない例としては、直近の製造ノルマ達成率や品質について、個人の成績が表になって、至る所に掲示されている。日本人だと自分の評価が他人に見られることに抵抗があるが、中国人の場合は、オープンな形で自分の成績が知らしめられることで、より公正に評価されていることを実感するのだという。
スタッフによって熟練度は変わってくるが、TIHではスタッフのスキルレベルと各組み立て工程の難易度指標を把握し、組み立てラインのどの工程にどのスタッフを割り当てるか決めることで、作業全体の効率化と、作業者のスキルアップ教育を計画的に進める体制を構築している。
また、あらゆる作業、そして作業指導において高いスキルを認められた者は「全能工」という地位に昇格できる。言わば、オールマイティーなチームリーダーだ。全能工になると、給与面でも優遇されるほか、将来の幹部候補として育成される。
その結果、今では、全ジェネラルマネジャーの25%、部長の77%、課長に至っては100%が現地スタッフとなっている。そのことがモチベーションとなり、全能工に就いたスタッフの離職率はほぼゼロとなったほか、この職制導入後は、生産台数と品質も向上したという。
切磋琢磨の環境
このほか、東芝グループでは全世界の設計・製造拠点のスタッフを対象とした「はんだ付けコンテスト」や「電子機器組み立てコンテスト」を行っている。
TIHの製造ラインでは、既に人の手ではんだ付けする工程は存在しないが、不具合が発生した部品のはんだ付けが適切であるかどうかは人の目でないと確認できないという。その目を養うことや、スタッフのスキル/モチベーションアップを狙って、はんだ付けなどのコンテストが毎年開催されている。
各拠点から選抜されたメンバーは、日本での世界大会に進出する。TIHでははんだ付けと電子機器組み立てコンテストに、過去十数年にわたり2~3人を選出し、近年は毎年優秀賞を獲得するという実績も残している。
TIHでのものづくりにかける意気込みは、同社が掲げる「Made by TOSHIBA Powered by Hangzhou」というスローガンに全て表されている。
TIH総経理(社長)の中原泰氏は、今回披露した取り組みや工夫などについて「恐らく日本のメーカーなら既にやっていることも多いと思うので、あまり自慢できるものではないかもしれない」とする。
一方で「TIHができて十数年が経ち、最初は日本に教えてもらいながらやっていたものも、だんだんと自分たちだけでできるようになり、今はさらなる自立化を目指しながら、成長していく段階に入った。現地スタッフの意識も高まっており、全体をまとめる力も付いてきた。近い将来、現地スタッフのみで運営されることもあり得る。そういった点を踏まえ、TIHは世界ナンバーワンの製造工場を十分狙うことができると思っている」との目標を語った。
コンシューマー意識
今回、現地採用の若い中国人設計スタッフにも話を聞けた。彼らは今回発売されたdynabook Tシリーズの開発にも携わっている。そんな彼らに「TIHに入って、今後どんなdynabookを作ってみたいか」という質問をぶつけたところ、以下のような答えが返ってきた。
「今までは安全性と品質を重視する法人向け製品を手掛けてきたが、今回からコンシューマー向け製品にも携わるようになった。コンシューマー向けでは、ユーザーにどのような印象を与えるかが重要。多くのユーザーが一目惚れするような製品を開発したい」
「ノートPCは東芝が作り出したもの。個人的に、長年東芝のノートを使ってきたが、品質に対するこだわりを感じていた。この市場のグローバルの展開は速く、競合メーカーの考え方も変わってきているので、東芝も考え方を変えないといけない。特に今後、私たちは、ビジネス向けとコンシューマー向けの観点を区別していかなければいけない。ビジネス向けで培った品質を維持しながら、コンシューマー向けに面白くて、楽しめるdynabookを展開して、感動を与えたい」
「私たちは、設計と製造が同じ場所にいるという体制によって、設計時点で不良を排除し、安心して使える品質を実現してきた。そのTIHの良さと日本側の技術力を融合して、高い競争力を持つdynabookをユーザーに届けたい」
「いつでも気軽に開いて、仕事だけでなく、プライベートでも楽しめる製品を作りたい。ソフトウエア、ハードウエアの両面がそろった開発を行い、たくさんのユーザーに届けたい」
「私はソフトウエア担当なので、今のハードウエアを軸に、ソフトウエアの力を発揮し、dynabookに取り込んで、これを持っていれば、生活や仕事がより便利になるものにしていきたい。マーケティング調査を行い、職業や年齢によって異なるニーズに応えられるような製品を提供していきたい」
確かに東芝のPC事業は縮小された。不採算地域から撤退し、黒字化を目指す今回の事業再編は、中原氏の言葉を借りるなら「PC事業を身の丈に合ったもの」にするのが目的。と同時に「dynabookを将来にわたって安心して使ってもらうため、PC事業は継続し、拡大も狙っていく」(同氏)という。
今回の取材を通じ、TIHが手掛けることで、dynabookのコンシューマー向け製品がより良い方向へと変貌を遂げつつあることが垣間見えた。(インプレスウオッチ)
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