「カジノ」で行政関与の拡大懸念
遊技産業の視点 Weekly View□シークエンス取締役、LOGOSインテリジェンスフェロー・木村和史
日本銀行は7月末の追加の金融緩和で上場投資信託(ETF)の買い入れ額を拡大した。ETFについては国内株価の下支えのためリーマン・ショック後から買い続けている。ETFは個別株銘柄ではなく、株価指数に連動する仕組みファンドである。アベノミクスにより日銀や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの官の市場介入が顕著となった。そして間違いなく今後も、この方向性が続く。そういう時代であるということを強く前提において、われわれは各種行動を規定し方向性を模索しなければならない。
さて、遊技業界の歴史を振り返れば、その時々により、ある意味“お上に翻弄される”シーンが多々あった。その原因が業界内になかったかといえば、決して皆無とはいえないが、半ば強制的な市場の度重なるシフトが業界関連企業の経営にネガティブな影響を及ぼしてきたのは間違いない。加えて、今般の遊技くぎに対する行政の言及しかり、前述の背景から推察すれば、行政関与の度合いが強くなる可能性も指摘される。最終的に、これまで自分たちがさんざん振りかざしてきたダブルスタンダードを棚に上げ、民の商慣習的あいまいな部分にメスを入れる方向にむかうだろう。そして、その建前として、いわゆる“カジノ”が使われる。
遊技業界では8月末に回収対象遊技機の第一次・二次リストの撤去期限を迎えた。シンクタンクが発表した業界の全国データを俯瞰すると、8月末のパチンコホールの売り上げ・粗利は例年より10~15%の減少となっている。「オリンピックの影響は限定的だし、やはり人気機種の撤去にともなう客の移動だろうか」と関係者からは不安の声も聞こえてくる。このような状況で、最終リストの撤去期限である12月末には、一体、市場はどんなことになっているのだろうか。
いずれにせよ、巨大産業の行く末が産業育成の視点の外で語られてよいはずがない。納税額の維持や従来レベルの雇用創出を考えても、よりファンに好ましい市場シフトを実現させ、産業として持続可能な成長を遂げる礎を、着実に築いていくことが望まれる。
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【プロフィル】木村和史
きむら・かずし 1970年生まれ。同志社大学経済学部卒。大手シンクタンク勤務時代に遊技業界の調査やコンサルティング、書籍編集に携わる。現在は独立し、雑誌「シークエンス」の取締役を務める傍ら、アジア情勢のレポート執筆など手掛ける。
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