川内原発即時停止は「無理難題」

高論卓説

 ■知事に権限なし 不安は完全に消せず

 鹿児島県の三反園訓知事は川内原子力発電所の即時停止要請の矛をいったん収める形になった。九州電力が再要請を拒否したためである。熊本地震で高まる「県民の不安」に配慮する知事に対して、九電の姿勢はかたくなに見えるが、実はそんな単純な話ではない。

 知事は運転を止めて地震に対する安全性を点検すべきだと繰り返し求めてきた。東京電力福島第1原子力発電所の事故以来、原発への不安が広がり、原発には逆風が吹いている。

 最初の停止要請への九電の拒否を知事は「極めて遺憾」として納得しなかった。再度、川内原発を直ちに停止して、点検し周辺住民の避難路などの支援策を検討するよう要請した。九電は特別点検や安全対策などの追加で応え、即時運転停止には拒否を貫いた。

 知事は九電の対応を完全に了解したわけではない。しかしこの状況では、取りあえず即時停止要請を見合わせざるを得ない。見方によっては、九電の姿勢は企業の論理に固執しているように映るだろう。

 しかし、ことの本質は全く違う。三反園知事の要請ははっきり言って無理難題なのである。知事にはもともと原発を停止する法的権限はない。また知事は「不安」の解消を求めているが、これにはどこまでやればよいのか基準がない。

 知事が九電の瓜生道明社長に手渡した要請書に「貴社におかれましては、原発を運転する者として、県民の不安の声に真摯(しんし)に向き合い、その思いに応える責務があり、原発をいったん停止し」とある。要請書には「不安」という言葉が10回出てくる。

 これが単なる「お願い」ならば、目くじらを立てなくてもよいかもしれない。だが知事は即時停止を迫って2度にわたり「要請」した。事実上、法的根拠なく役所の意思を押し付ける一昔前の悪しき行政指導である。

 川内原発は原子力規制委員会の安全審査を通り、地元の同意を得たうえで再稼働した。福島第1原発事故後の新規制基準に合わせて安全対策を講じてきたわけである。

 三反園知事は当選した7月の知事選で、川内原発の一時停止を公約に掲げていた。だからといって、法治国家のルールを無視されては困る。

 もう一つの大きな問題は「不安の解消」には決め手がないという点である。最近、企業が製品やサービスについて、よく「安心安全」を標榜(ひょうぼう)するが、どうやって「安心」を保証するのだろうか。安全については国や認証機関などによる基準があるので、実務的に対処できる。

 ところが「安心」できるかどうかは、感じ方の問題なので人によってまちまちである。とにかく原発が怖いと思う人は、原発が存在する限り安心できないのではないか。

 数値化した「安心基準」などできるわけがないから、九電は対処のしようがないだろう。三反園知事は「県民の不安」を思って、善意で九電に川内原発の停止を求めているのかもしれないが、実際には無理難題を言っているのに等しい。

 問題は尾を引き、川内原発で予定されている定期検査後の再稼働の際に再燃する恐れがある。無理が通れば道理が引っ込むではいけない。リスクを冷静に見つめて合理的に対応するのが、安全性をより高める道だろう。

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【プロフィル】森一夫

 もり・かずお ジャーナリスト 早大卒。1972年日本経済新聞社入社。産業部編集委員、論説副主幹、特別編集委員などを経て2013年退職。著書は「日本の経営」(日本経済新聞社)、『中村邦夫「幸之助神話」を壊した男』(同)など。66歳。