「日本版NCAA」が動き出す
スポーツbiz地球の反対側、リオデジャネイロでは連日、パラリンピックが熱戦を繰り広げている。テレビの前で声援を送っていらっしゃる方も少なくないと思う。
日本では、まだオリンピックの余韻が続く。先ごろ同じ日程で行われた陸上、水泳の大学生の大会が大盛況だった。桐生祥秀、萩野公介、瀬戸大也ら大学生メダリストが活躍したことも手伝い、久しぶりに大きく報道された。
◆インカレ大盛況
「大学選手権、インカレだけどね、今は競技別に開かれているけれども、いずれ一つにして国民体育大会のような総合大会として実施できたらいい。そうなれば日本の大学スポーツの普及、発展につながっていく」
日本体育大学の松浪健四郎理事長に話を聞いている。松浪氏はかねて、大学スポーツ組織の一元化を提唱、本紙6月3日付コラムでも「『全国大学スポーツ協会(NUSF)』のような団体を設立し、大学スポーツ全体を統括する組織を設立する必要がある」と主張した。
インカレ一元化は延長線上にある。「いま競技ごとの学生連合、組織がそれぞれ別々に賞状、メダルを出している。これを統一したものにするだけでも、学生の意識が変わってくる」
メリットは少なくない。イベントとして盛り上がり、桐生や萩野のような話題選手の登場はテレビ中継の可能性を広げる。放送権やスポンサーなどマーケティング活動の活発化は、大学スポーツを活性化しよう。
政府は今春から大学スポーツが持つ産業資源、人材資源、地域活性化能力などに着目、有識者による会合を重ねてきた。8月、全米大学体育協会(NCAA)をモデルに統括組織をつくる方針を定めた。今年度内にスポーツ庁が中心となって制度設計し、組織概要をまとめて大学や競技連合などに示す。2017年度にも司令塔となる新組織創設を目指すとしている。
会合メンバーでもある松浪氏によれば、東京六大学を中心とした野球や箱根駅伝、ラグビーなど人気競技を牽引(けんいん)車に、マイナー競技も巻き込んだ「日本版NCAA」になるという。
◆米では収入1000億円
NCAAは1906年に前身組織が創設され、10年から現在の名称となった。大学、カンファレンスなど1273組織が加盟、約43万人の学生を統括、支援している。日本ではスポーツドリンクの一括契約などでも知られるが、バスケットボールやアメリカンフットボールのテレビ放送権や入場料などで約1000億円近い収入を誇る。
収入は、加盟各大学に配分される一方、大学単位の試合興行やグッズ販売は個々の大学によって管理される仕組みだ。
「今は競技、学連、さらには大学ごとに運営しているが、人気や伝統のあるなし、地域の違いなどで格差は大きい。バラバラに行動するのではなく、統合、連携することで集客や企業協賛の増加も期待できる」
一方で、日本では教育の場である大学に経済活動を持ち込むことにいまだ、違和感を唱える人が少なくない。もちろん、大学は勉学第一である。そこがおろそかになってはならない。しかし、資源の活用を遅らせ、財源確保の問題など大学スポーツ活性化の芽を摘む要因となってきたことも否定できない。
同時に、OB組織による縦社会、学閥の横行など弊害も指摘されて久しい。新組織は一石を投じることにもなろう。
ただ、松浪氏は従来のかたちを壊すものではないとも話す。「各大学それぞれの伝統、企業コラボなど大学個々の努力は尊重されるべきで、利点を生かし併存することが望ましい」。経営視点からの発言である。
個人的には一元化に興味がつきない。『希望郷いわて国体』は11日終了したが、国体の競技施設を使い、例えば開催翌年に統合インカレを開けば地域活性化を後押しすることになろう。大学との関係強化が生まれ、合宿誘致なども考えられる。
大事なことは、統合組織による収益や人材育成などをきちんと大学に還元することである。NCAAはあくまでも大学スポーツの円滑な運営を主眼としており、学業成績や奨学金、暴力など大学スポーツ界を取り巻く数多くの問題にルールやガイドラインを設定し、指導してきた組織である。そこを忘れてはならない。(産経新聞特別記者 佐野慎輔)
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