鉄道車両の「心臓部」省エネ化
eco最前線を聞く□三菱電機 伊丹製作所 車両システム部パワエレシステム設計第三課 中嶋幸夫システム開発担当課長
三菱電機は鉄道車両の省エネルギー化に取り組んでいる。鍵を握るのは、電圧1500ボルトの直流の電気を交流に変換し、車両を駆動するモーターの回転を最適に制御するVVVFインバーター装置だ。シリコンカーバイド(SiC)を主回路素子に全面採用したパワーデバイス搭載の装置が世界で初めて営業車両に採用され、今年2月には日本機械工業連合会の優秀省エネルギー機器表彰で経済産業大臣賞を受賞するなど実績を積んでいる。伊丹製作所(兵庫県尼崎市)で開発に当たる車両システム部パワエレシステム設計第三課の中嶋幸夫システム開発担当課長は開発で培った技術を「鉄道車両にとどまらず、広く交通システム分野のエネルギー管理に生かしたい」と意欲的だ。
◆SiC導入で55%損失低減
--鉄道車両の省エネで技術的課題は
「鉄道車両の場合、自動車のエンジンに当たるインバーター装置とモーターで構成する主回路システムに入力される電力の損失度合いを分析すると、モーターと車両を停止する空気ブレーキが大きく、それぞれ10%以上を占める。そこで、双方のエネルギー損失を低減することに着目した。これらの機能は車体の下にあり一般に目に触れにくいものの、鉄道車両の心臓部であり、いわば『縁の下の力持ち』の部分で省エネに切り込んだ」
--具体的な取り組みは
「1980年代に導入され、現在広く普及しているVVVFインバーター装置の心臓部に当たるパワーデバイスの素子には一般的にシリコン(Si)が用いられてきた。これを耐性が約10倍のSiCに置き換えればパワーデバイスの損失が大幅に低減できると判断した。そこで開発を進めたのが主力回路素子のトランジスタ側とダイオード側の両方にSiCを用いた『フルSiC素子』で、従来素子に比べ55%の損失低減が可能となった。これまでに前例がなく、開発に苦労したものの、省エネに寄与する差別化した技術として確立できた」
--具体的効果は
「SiCが持つ低損失特性により省エネを図れると同時に、VVVFインバーター装置の熱の発生も抑えられ、冷却器を小型化できる。この結果、フルSiC適用の装置は従来型に比べ外形サイズ・質量とも80%以上の削減が可能となった。メンテナンスも容易となったうえ、車体重量自体が減り、省エネとの両立が図られた」
--実際の採用例は
「小田急電鉄が1000形リニューアル車両に2015年1月に世界で初めて採用し、搭載車両が営業運転されている。また、関東では西武鉄道、関西の私鉄でも採用され始めた。小田急が同年1月から約4カ月間、実際の営業運転車両で検証した結果、主回路システム全体で従来比約40%の省エネ効果を確認できた」
◆新型新幹線に採用決定
--今後の展開は
「東海旅客鉄道(JR東海)が20年の東京五輪・パラリンピック開催に合わせて開発中の新幹線の新型車両に、フルSiC適用インバーター装置の採用が決まった。既に現行のN700系車両で試験運転が進められている。新型車両は設計の自由度を高めるため、装置の小型・軽量化を重視している。この点を評価され、採用につながった。新幹線は在来線に比べて一段と高い信頼性と長期耐久性が要求される。技術的にはこの点で一番苦労してきた。新幹線への採用も含め、フルSiC適用インバーター装置がようやく普及する段階まで持ってこられたと感じている」(鈴木伸男)
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【プロフィル】中嶋幸夫
なかしま・ゆきお 東京理科大卒。2006年三菱電機入社。VVVFインバーター装置の開発にはフルSiC適用型の前段階に位置し、ダイオード側だけにSiCを用いたハイブリッドSiC適用型のパワーデバイスの開発から携わる。34歳。埼玉県出身。
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