差別化で進化する自販機 ダンス、方言、外国語対応…工夫こらして囲い込み

 
人気アーティストとダンスで共演できる江崎グリコの自動販売機=大阪市阿倍野区のあべのキューズモール

 自動販売機がここにきて進化を遂げている。江崎グリコは商品を買えば人気アーティストとダンスで“共演”できるアイスの自販機を全国3カ所に設置した。ダイドードリンコは各地の方言だけでなく、訪日外国人向けに外国語で説明する自販機を導入。スマートフォンをかざすとポイントがたまる自販機の展開を始めた。治安の良さから日本では街のいたるところで自販機を見かけるが、設置台数は減少傾向という。各社は自販機の差別化を進め、自社製品への顧客の囲い込みを目指す。(藤原直樹)

 アーティストと共演

 若者でにぎわう大阪市阿倍野区の商業施設「あべのキューズモール」に今年7月、人気アーティストと一緒に踊ることができるグリコの自販機「サイバーベンダー」が登場した。

 アイスクリームやアイスキャンディーなどグリコの自販機向け看板商品「セブンティーンアイス」を販売。正面にタッチパネル付の大型ディスプレーがあり、ふだんは商品の紹介やアーティストの動画が流されている。

 顧客がディスプレーをタッチして商品を購入すると、17人のアーティストから一緒に踊りたい1人を選択。自販機が自動でもう1人のアーティストを選び、ディスプレー上の2人のアーティストと一緒に踊ることができる。

 自販機は小型のカメラを備えており、ディスプレーには購入者とアーティストの映像が合成され、3人で一緒に踊っているように映される。このダンス映像は終了後にスマートフォンに転送して再生することも可能。アーティストには若者に人気の「AAA(トリプルエー)」「TRF(ティーアールエフ)」「Da-iCE(ダイス)」の3グループから計17人を起用した。

 セブンティーンアイスは昭和58年に「17歳の女子高生向けアイス」として誕生。現在は全国にある専用自販機2万台で販売している。サイバーベンダーは大阪のほか、川崎市幸区のラゾーナ川崎プラザ、名古屋市中区の名古屋パルコに計3台設置されている。

 グリコの担当者は「ダンスでたっぷり汗をかいたあとのアイスは特におすすめ。若者の話題になれば」と話している。

 方言で日本列島縦断

 一方、飲料の売上高の8割を自販機が占めるダイドードリンコは多種多様な自販機を展開している。

 平成12年から「おしゃべり機能」を備えた自販機を投入。この自販機はお金を投入すると「温かい飲み物はいかがですか」や、商品選択ボタンを押すと「おつりをお忘れなく」などと言葉で“おもてなし”をする。

 15年からは「釣り銭忘れんといてや」などと関西弁を話す自販機を導入。18年からは津軽弁や博多弁なども取り入れ多様化させた。今年4月には北海道弁を話す自販機を設置し計16方言を網羅。「方言による日本列島縦断が完了した」(ダイドー担当者)という。

 さらに今年からは急増する訪日外国人の購買意欲にも対応するため、日本語のほか、英語と中国語、韓国語を選べる自販機も設置している。ダイドーは「自販機は日本文化そのもので外国人観光客に人気。自販機で商品を買うことを楽しみに日本に来る人も多い」とする。

 ダイドーはまた、今年4月から飲料を購入するごとにポイントがたまるサービスを始めた。対応自販機は現在は東京と大阪のみの展開だが、今年度中に都市部を中心に2万台まで拡大。平成30年度までに全国で15万台まで増やす予定という。

 専用のアプリをダウンロードしたスマホを自販機にかざすと、購入金額1円につき1ポイントがたまる。ポイントをためると豪華賞品が当たるスロットくじなどに挑戦できる。今年9月からは無料通信アプリ「LINE(ライン)」で有料アイテムを購入できるギフトコードとも交換できるようになった。

 ポイントが主流に

 ポイントがたまる自販機は飲料業界で流行の兆しが出てきた。

 日本コカ・コーラグループはスマホの新アプリを4月に導入。対応自販機で飲料を購入することでたまるスタンプ(ポイント)を好きな飲料1本と交換できるようにした。年内に約14万台の対応自販機をそろえる計画だ。

 サントリー食品インターナショナルは、オフィス向けに提案している自販機「GREEN+(グリーンプラス)」で、歩数を記録する専用アプリを使ったサービスを開始した。

 対応する自販機にスマホをかざすと歩数を認識。一定期間内に規定の歩数を歩いていればポイントがたまる。飲料の購入でもポイントは加算され、たまったポイントは特定保健用食品の飲料などと交換できる。対応自販機は今秋から本格導入する。

 日本自動販売機工業会によると、27年の自販機の設置台数は前年比1%減の373万台で、減少傾向が続いている。各社は工夫をこらした自販機を投入することで、売り上げ減少の食い止めをねらっている。