セブン、脱カリスマ経営へ「選択と集中」宣言 関西の雄・H2Oと組み百貨店事業を縮小
セブン&アイ・ホールディングス(HD)と、阪急百貨店や阪神百貨店を展開するエイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングは6日、資本業務提携すると発表した。セブン&アイHD傘下の百貨店そごう・西武が関西で運営する3店舗をH2Oに譲渡する。売却金額や時期など詳細は今後詰める。
不振の百貨店縮小
セブン&アイとH2Oは関係強化のため、約57億円分の発行済み株式を互いに持ち合う。セブン&アイが保有するのはH2O株の約3%、H2Oはセブン株の約0.1%に相当する。
セブン&アイHDの井阪隆一社長は東京都内で記者会見し「選択と集中という新しい軸が必要だ」と述べ、これまでのグループ拡大路線を転換する考えを表明した。譲渡対象はそごうの神戸店(神戸市)と西神店(同)、西武高槻店(大阪府高槻市)。看板の掛け替えや従業員の処遇などは未定だ。
セブン&アイHDは業績不振の百貨店事業を縮小し、事業の立て直しを図る。そごう・西武の松本隆社長(64)が退任し、後任にカルチャー教室を運営するセブンカルチャーネットワークの社長を務める林拓二氏(63)が就く人事も正式に発表した。
セブン&アイHDがこの日発表した2017年度から始まる3カ年の中期経営計画では、“カリスマ経営者”と呼ばれた鈴木敏文前会長兼最高経営責任者(CEO)が主導して買収したそごう・西武が関西で運営する3店舗の譲渡を盛り込むなど、カリスマ経営からの脱却を明確にした。
「鈴木前会長が築き上げた思想に磨きをかけ、改める部分は変えていく」。都内で会見した井阪社長は、鈴木前会長が進めた経営路線の軌道修正を強調した。
05年に買収したそごう・西武は、西武筑波店(茨城県つくば市)と西武八尾店(大阪府八尾市)を来年2月に閉店することを決めていたが、さらに関西の3店舗を同業のH2Oに譲渡することを決めた。
総合スーパーのイトーヨーカドーは新規出店を凍結し、既存店は食品特化型などに改装を進める。鈴木前会長の“肝煎り”で傘下に収めたグループ企業のバルスと共同開発した雑貨店は、イトーヨーカドー内にある店舗を17年2月期中に閉店する計画だ。
大株主対策も課題
ただ、井阪社長を中心とする集団指導体制では、鈴木前会長が周囲の反対を押し切って設立したセブン銀行のような新規ビジネスは「難しい」(大手コンビニ幹部)との指摘もある。
また、「物言う株主」で知られる大株主の米投資ファンド、サード・ポイントが不採算事業の切り離しを求めるなか、今回の中期計画では前経営陣が決めたイトーヨーカドーの閉鎖40店の上積みはできなかった。
伊藤雅俊名誉会長ら創業家は、祖業であるイトーヨーカドーのリストラに否定的とされる。鈴木前会長の退任で相対的に影響力が増す創業家を含めた大株主との新しい関係構築も、構造改革を進める上で新経営陣の課題となる。(大柳聡庸)
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■セブン&アイHDの中期計画の骨子
・そごう・西武の関西3店舗をH2Oリテイリングに譲渡し、首都圏の店舗に経営資源を集中
・2017~19年度までの3カ年で、営業利益4500億円、株主資本利益率(ROE)10%を目指し、連結配当性向は40%を維持
・国内のコンビニ新規出店基準を見直し、不採算店舗の閉鎖を加速
・グループ共通のポイント制度による囲い込みの強化や独自のスマホ向けアプリの開発でオムニチャネル戦略を修正
・プライベートブランド(自主企画)商品の強化
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【用語解説】セブン&アイ・ホールディングス
1958年設立のヨーカ堂(現イトーヨーカ堂)を発祥とする一大流通グループ。名誉顧問の鈴木敏文氏が事業を拡大させてきたコンビニのセブン-イレブン・ジャパンを中核に、百貨店のそごう・西武やセブン銀行、専門店のロフトや赤ちゃん本舗なども含め約150社。2016年2月期の連結売上高は6兆457億円。
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【用語解説】エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリング
阪急阪神百貨店やスーパーのイズミヤなどを傘下に置く持ち株会社。2007年10月に旧阪急百貨店と旧阪神百貨店が経営統合し誕生した。今年7月時点で東京、大阪、兵庫などに百貨店15店舗、スーパー200店舗を展開する。16年3月期の連結売上高は9156億円、17年3月期は9300億円を見込む。
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