日用品・化粧品各社、中国人を口コミで攻略 展示会やSNSでブランド浸透図る
【JAPAN style】
日用品や化粧品メーカーなどの間で、中国人の消費者をターゲットとした“口コミ”戦略を強化する動きが活発化している。中国人は知人からの話を聞いて出発前に購入リストを作成し買い物をする傾向が強く、旅行代理店最大手のJTBは中国人のバイヤーに対し日本のメーカーが情報を提供する場を提供。商品ブランドが口コミによって広がる仕掛けづくりに力を入れ始めた。メーカーに代わり現地の口コミネットワークと共同で、新たな販売ルートを構築した上での越境EC(電子商取引)ビジネスも登場した。
思わぬ大ヒット
9月下旬。東京・秋葉原にある大型ビルの一角に、多くの中国バイヤーが集結した。中国人観光客に人気がありそうな家庭用医薬品や化粧品、食品の最新動向をチェックするのが狙いだ。その情報はSNSなどを通じ、中国人の仲間に発信されていった。
この催しはJTBが主催する「日本人気ブランド展示会」で今回が2回目。「日本の商品のファンを一人でも多く獲得し、ツアーなどを通じ日本に来ていただく機会を増やす」(中国・アジアマーケティング事業推進チームの米川良隆プロデューサー)のが目的だ。春節や桜の開花を見据えた時期にも開催することを検討している。
中国人観光客は日本在住もしくは自国の親族、知人から情報収集し購入リストを作成、日本で買い物をして帰国した後は情報共有するというパターンが一般的になっている。当日はコーセーやエーザイなど口コミ効果に期待を寄せる30を超える企業が出展した。大日本除虫菊(大阪市西区)もその中の一社だ。
同社の「KINCHO」ブランドは、日本国民の誰もが認識していると言っても過言ではない。しかし、中国では事業を展開していないため「まったく知られていない存在」(マーケティング部営業開発課の八橋和由課長)だ。
ところが、思わぬところからヒットに結びついた事例がある。その商品は、布団などに使用する「ダニコナーズ」。日本では殺虫剤カテゴリーの中で50番目程度の売れ行きだが、中国人の間では越境ECも含めて断トツの1位に輝く。3年前、中国のショッピングサイト「タオバオ」に、あるユーザーがダニコナーズの性能を紹介したところ、加速度的に出展が増えて「知らないうちに勝手にブランディングされていた」(八橋課長)のだ。こうした経験を踏まえ、展示会などを活用し、口コミによるブランド力の訴求に力を入れる。
「Q・B・B」ブランドのチーズで知られる六甲バターは初めて出展した。「空港近くの店舗では売れ行きが好調な商品も出ている。口コミで情報が広がりブランドの知名度が向上すれば」と担当者は期待を込める。
末端まで効能訴求
中国で2兆円の流通市場を形成したといわれている「プロショッパー」を対象とした越境EC事業に本格的に着手した化粧品卸ベンチャーのブルームス(東京都中央区)にとっても、口コミは武器だ。
プロショッパーはソーシャルネットワークを通じてグループを形成、そのメンバーに日本の商品を売り込むため、爆買いブームの裏方ともいわれてきた。ブルームスの沖野真紀社長は中国最大級のSNS「ウィーチャット」を通じて面談を繰り返し、日本の在住者を含め2000人と手を組むことに成功した。同社は中高級価格帯のスキンケアや美顔器など、美容や健康に特化した商品を紹介、卸販売を行う。
主婦や会社員で構成されるプロショッパーはそれぞれ、数百人から4000人程度の顧客を抱えており、月10万~300万円ほどの利益を得る。口コミで効能などが末端に広がっていくシステムを構築したため、ブルームスに委託したメーカーは、独自で宣伝を行わなくてもブランドが浸透していく仕組みだ。また、言語の壁を乗り越えたことで「『こういったものを売っていきたい』といった仕掛けを行いやすくなる」(沖野社長)というメリットも生まれた。
今後力を入れていくのがプロショッパーの質を高めること。具体的にはオンラインでの講義やテストを実施。エンドユーザーに対して単に説明をするだけでなく質問に的確に答えられるような、商品アドバイザーを育成し口コミの相乗効果を目指していく。
観光庁によると2015年の訪日外国人の場合、旅行消費額に占める買い物の比率は全体平均で41.8%なのに対し、中国は57.1%と圧倒的に多い。ただ、直近の円高などによって爆買いは一段落。売れ筋も高額品から化粧品や日用品といった消耗品に移行しつつある。高額品に比べて収益率は低いだけに、従来の買い物パターンに越境ECを組み合わせることで、より多くの固定ファンを獲得する仕掛けが不可欠となる。
中国で製造され現地で売られる商品は「ニセモノや、健康に害を及ぼす素材が使われているケースが多い。だから親族・知人からの話を参考にして購入するパターンが主流となる」(日用品メーカー担当者)という側面を持つ。消費行動の変化も合わせると、口コミ戦略は一段と重みを増しそうだ。(伊藤俊祐)
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