エイ・オー・テクノロジーズ 必要なデータを超高速検出

 
「SLIDで第2次電子立国を目指す」と意気込みを語るAOTの井上克己社長=東京都千代田区

 IoT(モノのインターネット)社会やビッグデータ解析、人工知能(AI)の活用が進む社会では、コンピューターの心臓部であるCPU(中央演算処理装置)に大きな負担をかける。検索や照合、認識などの情報処理は、CPUがメモリーから情報を抽出する時間も長くなる。ITベンチャーのエイ・オー・テクノロジーズ(AOT、井上克己社長)と電気通信大学の範公可准教授が開発した、メモリー型プロセッサーによる情報検出技術「SLID(Search-Less Information Detection=スリッド)」はこうした課題を解決し、近未来の社会に大きな革新をもたらしそうだ。

 SLID技術は、CPUが苦手な情報検出をメモリー内で処理させるという発想に基づく。メモリー型プロセッサーにはデータベース(DB)内の検索が得意な「DBP」と、立体空間データ認識が得意な「SOP」の2種類がある。ともに一般の半導体メモリーに数万~数百万個のグループアレイプロセッサー(GAP)を組み込み、超並列データ処理(一括処理)を可能にした。DBPやSOPは、自らに記憶された大量の情報から必要なデータを100万分の数秒間に超高速で探しだす。

 この技術は米国電子電気学会(IEEE)や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)など国内外の技術審査機関から高い評価を受け、すでに他社にも採用されている。

 独立系システムインテグレーター(SI)の日本コンピュータ・ダイナミクス(NCD、東京都品川区)は2015年春、AOTの技術を取り入れたデータ検索の開発に着手。8月25、26日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれた産学連携総合見本市「イノベーション・ジャパン2016」で実用化システムを公開した。

 範准教授のブースではSLIDによる画像認識、データベース検索、全文検索の3つのシステムを展示公開。ノートパソコン程度の電力で大型サーバーの性能を大幅に上回る高速処理が可能になる。AIの専門家、兵庫県立大学の松井伸之教授は「人工知能の進化を大幅に加速化できる」と期待する。

 また神戸大学大学院システム情報学研究科の大川剛直教授のブースは、同技術を使ったIT創薬に関わるシステムを展示した。同研究室はIT創薬関係の処理の高速化を目指し、これまで約100時間必要だった創薬用のデータ解析が1分以内に短縮されたという。創薬に詳しい東京大学の津本浩平教授は「高額なスパコンを利用しなくても特定のがん細胞に有効な創薬研究が可能になる」といった高い評価を受けている。

 井上社長は「CPUとSLIDの情報処理の分業処理化は極めて容易で単純。エンジニアの負担や開発コストも大幅に減らせる。この技術でITイノベーションを共創する企業と第2次電子立国を目指している」と、SLIDの意義を強調した。

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【会社概要】エイ・オー・テクノロジーズ

 ▽本社=千葉県柏市松葉町4-7-4-101

 ▽研究室=千葉県柏市柏の葉5-4-6 東葛テクノプラザ

 ▽設立=2010年9月

 ▽資本金=1900万円

 ▽事業内容=情報処理先進技術の開発、事業化、ライセンス