サムスン自滅で中国メーカーに“大躍進”予測 日本企業は相変わらずの蚊帳の外
火を噴く欠陥スマートフォン「ギャラクシーノート7」の生産・販売中止で窮地に陥った韓国のサムスン電子のシェアをライバルメーカーが虎視眈々と狙っている。サムスンに次ぐ世界2位の米アップルには好機だが、間隙を突き、3位のファーウェイ(華為技術)や4位の「OPPO(オッポ)」ブランドを展開する広東欧珀移動通信、「vivo(ビーボ)」ブランドの広東歩歩高電子工業といった中国勢が大躍進するとの予測がある。サムスンのスマホと同じOS(基本ソフト)「アンドロイド」を採用していることに加え、これまでは安さが売りだったが、高級機種を強化し存在感を高めているためだ。一方で、“ガラパゴス”の日本メーカーは、相変わらずの蚊帳の外だ。
「端末から煙を吹き出す映像や焼け焦げて溶けた端末の画像がネットで拡散したダメージは計り知れない。メーカーの生命線である品質への信頼を失い、世界各国で消費者のサムスン離れが起きている」
米市場調査会社のアナリストは、サムスンの危機的状況をこう指摘する。
サムスンはノート7の生産・販売中止による損失について3兆5000億ウォン(約3200億円)前後になるとの推計を発表している。しかし、ユーザーの乗り換えが加速すれば、スマホの世界市場で首位の20%超を誇るシェアがどこまで低下するのか見通せない状況だ。
台湾の市場調査会社、トレンドフォースはノート7の生産・販売中止を受け、メーカー別の今年の出荷台数予測を修正した。それによると、サムスンは当初予測の3億1600万台から3億1000万台に、600万台の下方修正となった。
これに対し、最大のライバルのアップルは2億500万台から2億800万台に300万台引き上げた。中国勢では、ファーウェイが、1億1900万台から1億2300万台へ400万台の上方修正。オッポとビーボは合算で、1億4400万台から1億4700万台へ300万台増えると予測した。
アップルは、ノート7の発煙・発火事故が相次ぎ、リコール(回収・無償修理)措置がとられる最中に、新型「iPhone(アイフォーン)7」を発売。ライバルの失態が追い風になるとの期待から、株価も年初来高値に上昇するなど、恩恵を受けている。
ただ、実際の販売押し上げ効果は限定的との見方も。その理由は、端末を作動させるOSの違いだ。アイフォーンは独自の「iOS」を使用しているのに対し、サムスンは米グーグルが提供している「アンドロイド」を採用。ITアナリストは「操作が異なる別のOSへの買い替えは勇気がいる」と、ハードルの高さを指摘。また、「大型画面のノート7のほか、主力モデルのS7やS7エッジなど豊富なラインアップをそろえるギャラクシーの受け皿としては不十分」とみている。
そこで俄然(がぜん)注目を集めているのが、同じアンドロイドを採用している中国メーカーだ。トレンドフォースの出荷台数予測をみると、上方修正率は、アップルが1.4%増なのに対し、ファーウェイが3.4%増、オッポとビーボの合算も2.1%増と中国勢が上回っており、サムスンからより多くのシェアを奪うとみているのだ。
新興の中国勢の成長は目覚ましい。米調査会社のIDCによると、2016年4~6月期のメーカー別出荷台数は、首位のサムスンが7700万台で、シェア22.4%を占め、2位のアップルが4040万台、シェア11.8%で続いた。
3位はファーウェイの3210万台(シェア9.4%)、4位にオッポが2260万台(シェア6.6%)、5位にビーボが1640万台(シェア4.8%)で入り、中国勢が名を連ねている。
目を見張るのは、その伸び率だ。サムスンが前年同期比5.5%増、アップルは同15.0%減と明暗を分けるなか、ファーウェイは同8.4%増と伸び、オッポは同136.6%増と2.5倍近くに、ビーボは同80.2%増と倍近くという驚異的な伸びをみせた。
中国勢はこれまで低価格を武器に自国や新興国でシェアを伸ばしてきたが、ここにきて高級機種を投入し、新興国の富裕層や欧州を中心とした先進国でも急速に販売を伸ばしている。
通信インフラの関連機器メーカーとして1987年に創業したファーウェイは、SIMフリーの格安スマホで日本でも知られている。
今年4月には、ロンドンでドイツの老舗カメラメーカー、ライカと共同開発した主力モデル「P9」と「P9プラス」を大々的に発表した。iPhone7に先駆けてデュアルレンズカメラを搭載したほか、最新の指紋認証機能や高性能バッテリーを備え、アルミ製ボディーでデザインも洗練されている。
研究開発費を惜しみなく投入し、品質は大きく向上。さらに、スペインのサッカー1部リーグ、バルセロナのスーパースター、メッシ選手をブランドアンバサダーに起用するなど欧州を中心に積極的な宣伝広告を展開し、サムスン、アップルに次ぐ世界3位のスマホメーカーに躍り出た。
ファーウェイは数年後にアップルを抜き、5年以内に世界トップに立つという目標をぶち上げている。2016年4~6月期のシェアでは、アップルに2.4ポイント差まで肉薄し射程にとらえている。成長率を考えれば、世界トップも夢物語ではない。
ファーウェイ以上に驚異的な成長で台頭しているのが、オッポとビーボだ。オッポは2004年、ビーボは09年に立ち上げられた新興勢力。IDCのメーカー別の出荷台数シェアでは、2015年10~12月期に4位だったレノボ、5位のシャオミ(小米科技)の同じ中国勢をけ落とし、16年1~3月期にオッポが4位、ビーボが5位と初めてトップ5にランクイン。業界を驚かせ、中国勢の群雄割拠を印象づけた。
オッポもビーボも、「アイフォーンのパクリ」ともいわれる洗練されたデザインに加え、性能もハイスペックな端末を、比較的高価格ながらもアップルやサムスンよりは安く販売。中国の若者に支持され、シェアを急拡大している。
サムスンの欠陥スマホ問題は、中国勢が高級路線へと舵を切るなかで起きた。OSが同じであることに加え、性能やデザインでも見劣りしない機種がそろっており、サムスンのギャラクシーの代替品としてシェアを大きく伸ばす可能性がある。そうした意味で、サムスンはアイフォーン7の発売時期以上に、最悪のタイミングで自滅ともいえる失態を犯してしまったといえる。
一方で、日本メーカーへの恩恵は期待できそうもない。サムスンのギャラクシーは日本市場で不人気で販売台数が少なく、そもそも乗り換え需要が見込めないためだ。国内市場でしか売れず、世界シェアでもランク外の日本勢には出番もないというのが実情だ。
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