NYタイムズの新規事業も大成功 いまネットメディアで“料理”が熱いワケ

高論卓説
東洋経済新報社の山田俊浩氏

 ■「料理を制するものがウェブ制す」?

 ニューヨーク・タイムズといえば、米国で最も権威のある新聞だ。しかし、その事業の中で、いま最も成功しているといわれているのが2014年に立ち上げた料理レシピ集「NYT Cooking」だ。読者のニーズにきめ細かく応える「NYTベータ」と呼ばれる部門が進めている新規事業だが、料理のプロによる1万を超えるレシピ集が評判を呼び、関係者によると「ニューヨーク・タイムズのサイトの中で、最もよく読まれているコーナー」だ。

 新興ウェブメディアの旗手ともいえる「バズフィード」にとっても、15年に開始した料理動画サイトの「Tasty(テイスティ)」は、事業の重要な柱である。今年8月には日本でもサービスをスタートさせているが、早回しで面白い料理レシピを紹介する動画は、女性の間で早くも評判になっている。

 25日に東京都内で記者会見した創業者のジョナ・ペレッティ最高経営責任者(CEO)も、テイスティの成功を強調していた。

 日本でも料理動画のベンチャー企業が勃興している。昨年9月の創業から日が浅いにもかかわらず、爆発的な成長を続けている料理動画メディアが「デリッシュ・キッチン」。かつてソーシャルゲーム大手のグリーで取締役を務め、「釣り☆スタ」や「探検ドリランド」の立ち上げを成功させた吉田大成氏が創業した「エブリー」が手掛けている。今年6月には、グロービス・キャピタル・パートナーズ、DBJ キャピタル、グローバル・ブレインなどを引受先として、総額6.6億円の資金調達を実施した。ネットの世界では、驚くほど料理まわりが「熱い」のだ。

 その理由はいくつかある。まず食べ物は驚くほど多くの人々をひきつける。つまり、たくさんの読者を獲得できる。東洋経済オンラインでも、焼き肉やラーメンなどの写真を前面に出した記事はたくさん読まれる。お昼の12時前後は、特に読まれる。何を食べようか、どれだけ心を悩ませている(踊らされている)かがよく分かる。食べ物そのものが強烈なコンテンツなのである。しかも、フェイスブックの「いいね!」がたくさんつき、シェアもされる。記事が拡散していくのだ。

 また、容易にマネタイズ(収益事業化)につなげることができる。広告にはうってつけだ。レシピの中に「味の素」を使えば、味の素から広告費をもらえる。フライパン、包丁など魅力的なキッチン用品を作っているメーカーにスポンサーになってもらうことも可能だ。

 物販にもつながる。ニューヨーク・タイムズはレシピの中で紹介している食材をワンクリックで自宅に配達するサービスを今年5月から始めている。

 そして何よりも、投資がほとんど不要だ。台所が一つあれば、次々に動画を製作できるし、特徴のあるレシピ作りは専門家に頼んでしまえばいい。

 そう考えると、料理番組などで過去からの蓄積がある日本のテレビ局にとっては、大きなビジネスチャンスが広がっているのではないか。新聞社や出版社にとっても、大きなビジネスチャンスだろう。

 世界的な和食ブームという追い風もあり、グローバル展開への道も開けてきそうだ。「料理を制するものが、ウェブメディアを制す」という時代がやって来たのかもしれない。

【プロフィル】山田俊浩

 やまだ・としひろ 早大政経卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。「週刊東洋経済」の編集者、IT・ネット関連の記者を経て2013年10月からニュース編集長。14年7月から東洋経済オンライン編集長。著書に『孫正義の将来』(東洋経済新報社)。