「ヤギの呪い」を解いたオーナー

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ワールドシリーズ開催が71年ぶりとなった本拠地リグリー・フィールドで、開場を待つカブスファン=10月28日、シカゴ(共同)

 □二松学舎大大学院非常勤講師・宮田正樹

 米メジャーリーグ(MLB)では、シカゴ・カブスが71年ぶりにワールドシリーズ進出を決め、何と108年ぶりの優勝を遂げた。そのルーツを1876年創設のシカゴ・ホワイトストッキングスに遡(さかのぼ)るシカゴの名門球団・カブスは、1945年に起きた「ヤギの呪い」事件以来、ワールドシリーズに出場することすらできなかった。

 この「ヤギの呪い」を解いた鍵を紹介する。

 ◆2009年にカブス購入

 カブスは、ホーム球場「リグリー・フィールド」にその名が残るチューインガム王、ウィリアム・リグリーJr.が21年に買収して以来、リグリー家が長らくオーナーであった。81年にシカゴを拠点とする大手新聞社トリビューンが買い取ったが、同社の経営悪化で球団と球場は売却され、2009年、トム・リケッツ氏が率いる地元財閥・リケッツ・ファミリーがこれを購入した。

 1916年からの本拠地リグリー・フィールドは、ボストン・レッドソックスのホーム、フェンウェイ・パークに次ぎMLBで2番目に古い球場である。フィールドと観客席を隔てる壁はレンガ造り、外野のフェンスはツタで覆われている。球場周辺の住宅街と絶妙なバランスを保ち、視界を遮る建物や高いフェンス、大きな観客席もない。「古きよき時代」の野球場の雰囲気をそっくり残す、ノスタルジアに満ちた場所として人気を博す。その立地を生かし、外野側に近隣する居住用ビルのオーナーや住人の多くが屋上や居間を「観客席(室)」として有料で観客を呼び込み、飲食を提供するビジネスを昔から行っている。「ルーフトップ・ビジネス」(屋上観戦ビジネス)と呼ばれ、同球場の名物でもある。

 新オーナーとなったリケッツ氏の経営戦略は、収容人数も少なく老朽化した球場と周辺エリアの再開発、チーム強化で、総合的に売り上げと収益を伸ばすことだった。その一環として、カブスによる観戦価格のコントロールが及ばない屋上観戦ビジネスを自らの下に置き、売り上げそのものの取り込みを目指した。

 2013年初め、同氏は総額3億7500万ドル(現在のレートで約400億円)の再開発計画を打ち出した。14年には3990平方フィート(約370平方メートル)のジャンボトロンを含む計7つの広告看板を球場に設置すると明らかにし、シカゴ市から建設の許可を得た。

 ◆「屋上」を支配下に

 看板設置で視界が妨げられることを圧力に、屋上観戦ビジネスの売却を迫るカブスに対し、屋上オーナーたちは工事差し止め訴訟を起こしたが、球団側が完勝した。その結果、16年4月時点で、全部で16を数える屋上観戦ビジネスのうち10が球団やその子会社などの所有となっている。

 球団の経営においては、チケット収入をいかに増やすかが最大の課題である。

 その方法として(1)観客席を増やす(2)会員制レストランやラウンジにアクセスできる高級席「クラブシート」や「スイートボックス」の新増設で単価を上げる(3)野球以外のイベントに利用する-などが挙げられる。これらの実行には資金調達と返済原資が必要となるが、カブスの場合は、広告看板の増設で新たな収入を獲得した。球場の立地エリア全体をボールパークおよびアミューズメント施設として開発し、総合的な地域再開発も行っている。

 また、屋上観戦ビジネスをコントロール下に置くことは、観客席あるいはクラブシートやスイートボックスの増設と同じ効果がある上、球団による価格コントロールができるという、一挙両得の手段でもあった。

 こうして得た資金を優秀な監督の獲得、選手の補強や待遇改善に投入することでチーム力がアップし人気が出る。それにより観客動員力が上がり、広告料やスポンサーシップの対価が上がる、という好循環がもたらされるのである。事実、カブスは本年、ワールドシリーズを制覇し、「ヤギの呪い」を解いたのだ。

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【プロフィル】宮田正樹

 みやた・まさき 大阪大学法学部卒。1971年伊藤忠商事入社。物資部、法務部を経て、2000年5月、日本製鋼所。法務専門部長を経て、12年10月から社団法人GBL研究所理事・事務局長(現在に至る)。非常勤講師として04年から二松学舎大学大学院で「企業法務」、帝京大学で「スポーツ法」(08年~16年2月)に関する教鞭(きょうべん)をとっている。