「起業王」は火星を目指す 22世紀に100万人移住? 宇宙開発も「民活」
シリコンバレーを代表する米起業家が、宇宙事業にのめり込んでいる。先日は火星への移住構想をぶち上げて世の度肝を抜き、自らも決死の覚悟?で火星に行くという。目の飛び出るような渡航費用など実現性を疑問視する声も少なくないが、宇宙開発ビジネスは米起業家らの間で参入の動きが相次ぎ、盛り上がりをみせてきた。
9月27日、メキシコのグアダラハラで開かれた国際宇宙会議。米メディアなどの報道によれば、会場は聴衆ですし詰め状態で、異様な熱気に包まれていたという。
いつもなら科学者が難しい議論を交わす学術会議に過ぎないが、この日ばかりは、大富豪がスーパーヒーローになって世界を救う映画「アイアンマン」のモデルともいわれるカリスマ起業家がプレゼンを行うことを皆知っていたからだ。
「火星に行くぞ。地球の外に文明を打ち立てる!」
姿を現したイーロン・マスク氏が声を張り上げると、聴衆は待ってましたとばかりに拍手喝采。イベント会場のような大盛り上がりとなった。
米国を代表する起業家のマスク氏にはいくつもの「顔」がある。電気自動車(EV)ベンチャー、テスラ・モーターズの最高経営責任者(CEO)として有名だが、民間宇宙企業スペースXの創業者でもある。スペースXは米航空宇宙局(NASA)から国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送を請け負っており、ロケットや衛星の打ち上げを行っている。
マスク氏が発表した火星移住構想の概略はざっとこうだ。まず2018年に火星探査のために無人宇宙船を打ち上げる。その4年後をめどに有人宇宙船も打ち上げ、住居や食料製造施設などを整備しつつ移住を開始。マスク氏によれば、40年から100年で「火星で完全に自給自足できるようになる」という。
このために120メートルを超す史上最大のロケットを製造し、一度に100人程度を火星にピストン輸送。計画では、22世紀までに約100万人が移住可能になるとしている。
最近日本で公開された話題映画「インフェルノ」は人口爆発をテーマにしているが、温暖化問題なども重なって地球にいずれ人類が住めなくなるのでは、との指摘は以前からある。マスク氏が火星移住構想を推進するのはこうしたリスクを避けるのが狙いで、「人類をマルチプラネタリー(複数の惑星に暮らす)種族にする」と訴えた。
ただ、課題は山積しており、最大のネックはもちろんコスト面。マスク氏によれば、火星に人間1人を送る費用は現在は10万ドル(約1兆円)程度かかる。これをロケットの再利用や、火星で調達可能なメタンを燃料に使うことなどで、ゆくゆくは1000万~2000万円に抑えることが可能とし、巨額の私財もなげうつという。
それでも間に合わないので、マスク氏は「火星旅行に投資したい人は大勢いると思う。政府も注目してくれたらうれしい」として、最終的には官民一体の巨大プロジェクトになることを期待しているが、マスク氏のもくろみ通りに進むかどうかは不透明だ。
さらに、月よりも遠い火星への旅行には当然リスクや危険も伴う。マスク氏自らも火星に行くつもりで、米ITサイトのギズモードによると、「途中で死んでも会社の継続に支障がないよう、しっかりと後継プランを用意しておきたい」と発言しているが、強い覚悟と評価するか、一抹の不安を覚えるかは、人によって分かれるところだろう。ほかにも、マスク氏が詳細を明らかにしていない火星でのインフラ整備の具体策など、「疑問がいっぱい」(ギズモード)ではある。
ただ、これまで宇宙開発は各国の政府機関が主導してきたが、民間企業や高い人気をもつ経営者が参入することで、より加速する可能性は大きい。オバマ米大統領も民間活力を生かし、米企業と連携して火星を目指す方針を表明している。
スペースXには米グーグルも出資しており、スペースXが追求する宇宙開発の低コスト化に一役買う。グーグル幹部らが出資している米プラネタリー・リソーシズは、小惑星資源の採掘など民間での宇宙探査を促進することを目的に設立されたベンチャーだ。
マスク氏と並ぶ米IT界のカリスマの一人、米アマゾン・コムのジェフ・ベゾスCEOは、2000年に航空宇宙企業のブルー・オリジンを設立。将来の有人宇宙飛行を目指した事業を行っており、宇宙船開発やロケット回収などに取り組んでいる。ライバルのマスク氏の最近の派手な動きは気になるところだろう。
マスク氏の火星移住構想をきっかけに、宇宙開発熱が一層高まりそうだ。
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