□ワールド・ワイズ・ジャパン代表 LOGOSプロジェクト主幹・濱口理佳
■市場シフトは「避けがたい変化」
12月末の撤去対応について、警察庁保安課の津村課長補佐は行政講話で「警察が要請したものであることをよく理解いただきたい」と述べた。遊技くぎの問題と高射幸性遊技機の問題をごっちゃにしている業界関係者もいるが、たとえ遊技くぎ問題がなかったとしても遊技機の市場シフトは避けられない状況にあった。
かねて、日本でのカジノ実現に伴う動きが、遊技業界にさまざまな角度から影響を与える可能性は指摘されてきた。また、2014年8月に厚労省からギャンブル依存症が536万人存在するという調査結果が出た後は、ギャンブルと娯楽であるパチンコ・パチスロの混同が加速した。さらに、ギャンブル依存症問題を掲げた団体が乱立。ホームレスの団体までが「ホームレスになる原因がギャンブル依存症にある」と主張するほど“依存症の一人歩き”が横行し、遊技への「のめり込み」が社会で問題視されるようになった。
このような遊技業界を取り巻く環境変化を踏まえれば、ギャンブルと差別化を図るための対応は必須。その(社会に対して)分かりやすい手段が、行政にとっては「遊技機の射幸性を抑えること」であり、この対応がベストかどうかはさておき、遊技機の仕様変化を余儀なくされる事態を招いた。そう考えると、今回の市場シフトは具体的に業界内の誰のせいでもないし、ギャンブルと同一視されるような状態を放置してきた業界全体の責任でもある。さて、この市場変化は止めることができたのだろうか。
「イヤだ、嫌だ」と、どんなに足踏みをしたところで、もはや「従来通り」に戻ることは、時代も社会も許さない。カジノが実現しようがしまいが、自らを娯楽として律し続けることができる環境整備に邁進(まいしん)するしかない。時間の容赦ない流れの中、人間がいくら望んでも過去に戻れず、これからを良いものにしていく努力しかできないのと同様、企業・産業も「良かったあの頃」には戻れない。できることは、「良かったあの頃と同じくらい満足できる未来を作ること」だけだ。
もはや、業界に携わるすべての人が前を向き、産業の持続可能な未来に備える時期にきている。
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【プロフィル】濱口理佳
はまぐち・りか 関西大学大学院文学研究科哲学専修博士課程前期課程修了。学生時代に朝日新聞でコラムニストデビュー。「インテリジェンスの提供」をコアにワールド・ワイズ・ジャパンを設立。2011年、有志と“LOGOSプロジェクト”を立ち上げた。
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