錯覚した動き、踊る美少女CG、女の子や火薬の匂い…ベール脱ぐARやVRの「先」
位置情報ゲームの「ポケモンGO」でAR(拡張現実)が一般に普及し、プレイステーションVRの登場でVR(仮想現実)に入り込む面白さが広まったが、その先を目指す動きがすでに始まっている。最新の技術を見せる展示会などに登場したVRやARのシステムには、これからの暮らしや遊びを一変させる可能性を持ったものが幾つもあった。
湾曲した壁の脇に立ってVRヘッドマウントディスプレイを装着すると、目の前にはまっすぐな壁面に沿って、高さ200メートルの場所に設置された足場が伸びる。プレーヤーは真正面に見える風船を取りに足場を歩いて行く。VR空間での足取りは真っ直ぐになるが、傍目には湾曲した壁に沿って曲がりながら歩いている。
東京大学大学院情報理工学研究科 廣瀬・谷川・鳴海研究室/ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンが、10月末に日本科学未来館で開かれたデジタルコンテンツEXPO2016に出展した「Unlimited Corridor」という技術。壁に指先などを触れさせてガイドとし、それをVRによって真っ直ぐな壁だと錯覚させることで、回りながら歩いても、自身は真っ直ぐ歩いているように思い込ませる。狭い空間でも広大なスペースを移動して遊ぶアトラクションを提供できるようになる。
男性が踊っている。横のモニターを見ると、美少女キャラクターが男性とまったく同じ動きをして、ポーズまで決める。ライブカートゥーン(東京都品川区)が提供している「きぐるみライブアニメーターKiLA」。その場ですぐにアニメが作れるリアルタイムアニメシステムで、2016年9月末までテレビ放送されたアニメーション番組「魔法少女? なりあ☆がーるず」の制作でも使われていた。
手足から指先まで11カ所のセンサーから動きを取り込んでいるため、キャラクターの動きは実にスムーズ。番組では、声優から声と動きを読み取ってアニメを作っていた。ネットワークでつながった仮想空間に入ったプレーヤーのアバターが、人間のように動き回るVRコンテンツが作れそうだ。
デジタルコンテンツEXPO2016と同じ会場で開かれていた、第24回国際学生対抗バーチャルリアリティコンテストには、学生たちがアイデアを持ち寄って作り上げた革新的なVRが出展され、競い合っていた。ここで総合優勝を果たしたのが、「THE JUGGLINGM@STER」という装置。VRヘッドマウントディスプレイを着け、仮想空間でボールを手から投げ上げ受け止めるジャグリングを行うもので、慶應義塾大学理工学部のチームが開発した。
現実の空間では、プレーヤーの腕に取り付けた装置から、アームがついたボールが手のひらに落ちる。ボールの感触を得て、プレーヤーは手を動かしてボールを跳ね上げる。このくり返しによってジャグリングをしている体感を与える。見たり聞いたりするだけでなく、実際の動作も重ねることで一段の没入感に浸れる。
その場にいるように思わせる映像と音声に、体感を加えることも増えてきたVR。これに匂いが加わったら? そんな可能性を探ろうとしているのが、ザーズ(東京都千代田区)の「ZaaZ VR」だ。KADOKAWAのアスキー・メディアワークスが、日本発のベンチャーを集めて11月に開いた展示会に登場し、注目を集めていた。
横長のデバイスをマグネットで取り付けたVRヘッドマウントディスプレイを装着し、再生されるコンテンツを見ていると、鼻のあたりに微風とともにフライドチキンや銃砲の火薬、そして女の子の髪から漂う香りが漂ってくる。装置の中にセットされている匂いが染みこませてあるシートで、無線によってコンテンツの場面と連動する形で、それぞれにピッタリの匂いを外に漂わせる。
ザーズはもともと匂いのマーケティングを展開している会社で、店舗などに相応しい匂いを噴出して漂わせ、販促に繋げるビジネスを展開して来た。こうしたノウハウとIoT(もののインターネット)やVRの技術を組み合わせて実現させた「ZaaZ VR」。ゲームとセットで販売したり、VRを使った店頭プロモーションで匂いを組み合わせたりする展開を探っていくという。
アスキー・メディアワークスの展示会には、VRやARのデータ表示に役立ちそうな新技術も登場していた。QDレーザ(川崎市川崎区)が提供している「網膜走査型レーザーアイウェア RETISSA」は、フレームの中にレーザによって網膜に映像を直接投影する装置が組み込まれていて、裸眼でもくっきりとピントが合った映像が見える。小さい画像だが、隅に表示された小さな文字でも読めてしまう。
眼鏡の前面に取り付けられたカメラで撮影した画像を、装置を介して網膜に直接投影することで、眼鏡を使わなくても周囲の風景をくっきりとした映像として見ることも可能。前眼部に疾患があって眼鏡では矯正できなかった人に、今まで見られなかった外の風景を見せられるようになるという。製品化しつつ医療用としての認証も得て、2018年に本格的な販売を始めたい考えだ。
ARでもVRでも、目や耳に取り付けた装置を使って情報を得ることには変わりがない。これを現実空間へと持ち出すのが、“VR元年”の次を目指している研究者たちの関心だ。筑波大学助教で、ピクシーダストテクノロジーズ代表取締役を務める落合陽一氏は、空間上の任意のポイントに音を集めて聞かせる不思議なスピーカー「ホログラフィックウィスパー」をデジタルコンテンツEXPO2016に出展していた。
卓上に並んでいるのは円形をしたスピーカーだが、前に立っただけでは何も音は聞こえない。顔を出してスピーカーの上に耳を近づけると、そこで初めて音が耳に聞こえてくる。以前から、超音波によって粒を浮かせ、空中に模様などを描く装置など、空間をキャンバスにする技術を次々に送り出していた落合氏。近未来を描いた映画やアニメーションのように、空間上にさまざまな情報が現れ飛び交う世界が、ここから生まれてくるかもしれない。
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