「西武vs東武」池袋デパ地下決戦 ポスト爆買い 百貨店、活路は「食」

 
西武百貨店池袋本店のデパ地下入り口

 訪日外国人客(インバウンド)の「爆買い」終了や衣料品販売の低迷で、不振が続く百貨店業界だが、「デパ地下」の食品売り場は好調だ。中でも1日平均約260万人が利用する池袋駅は日本有数の商圏で、東口の西武百貨店と西口の東武百貨店が激しい顧客争奪戦を繰り広げている。近年は改装が奏功し西武優位だが、東武も巻き返しを図っており、年末商戦真っ盛りの池袋は熱気に包まれている。

 スイーツ前面で誘客

 「首都圏最大級の食品売り場を持つ強みを生かし、食の東武をさらに伸ばす」と、攻めの姿勢を見せるのは、東武百貨店池袋店の守徹店長だ。

 池袋と船橋に2店舗を持つ東武百貨店はインバウンド需要を取り込めず、2期連続の減収、営業赤字で2月末にはリストラで約2割の従業員が退職した。

 ほかの百貨店がインバウンドの恩恵を受ける中、一足早く構造改革を断行し、来春には家具・インテリア大手のニトリの入居も決断した。

 もともと東武池袋は首都圏最大級の食品売り場を持ち、生鮮三品(肉魚野菜)は都内1位の売り上げを誇る。ほかの都内百貨店の食料品は売上高全体の2割程度だが、東武池袋は約33%を占める。今後はデパ地下やレストラン、物産展など食の分野を伸ばす戦略だ。

 東武は西武の改装のあおりを受けたが、今夏に巻き返し策を打ち出した。これまで丸ノ内線の改札口がある地下道の顧客をうまく取り込めないのが大きな課題となっていた。そこで7月に改札口前の地下1階入り口に約2億円を投じ「HANA3TERRACE(ハナサンテラス)」と呼ばれる売り場を設置した。

 西武に対抗するため、スイーツの販売を中心に展開し、国内外から和洋菓子6店舗が2週間ごとに入れ替わる売り場にした。それまで入り口付近は地味な空間だったが、華やかで活気ある場所に生まれ変わった。東武池袋の広報は「集客効果は確実に上がっている」と話す。

 特に20~40代の若い顧客が増えている。強みとしている地下2階の生鮮品売り場への誘導効果も出ているようだ。これまで西武に顧客が流出していたが、歯止めがかかっている様子だ。

 一方、ライバルの西武百貨店池袋本店はセブン&アイ・ホールディングス傘下となり、食品売り場を強化してきた。2009年に食品フロアの改装を実施し、東武の顧客を奪った。

 強化策として、女性客に人気が高いスイーツ売り場を充実させた。人気店に声をかけ、今ではブランド数で日本一の売り場となり、選択肢の多さから、顧客の高い支持を得ている。

 人気のスイーツ売り場は乗り換え客が多い地下1階の丸ノ内線の改札通路と有楽町線の改札通路の間にあるため、「改装で来客が大幅に増えた」(そごう・西武関係者)。

 地下1階の惣菜(そうざい)売り場も厨房(ちゅうぼう)を地下3階に集約し、顧客が歩き回りやすいように改善した。食品の自主企画商品を導入し、在庫量や陳列方法など小さな修正を繰り返した。惣菜売り場は平日の昼間も人が多く、3~4階にある婦人服売り場とは対照的だ。

 地下2階の生鮮売り場も曜日や時間帯別の実績を細かく分析し、顧客の好みに合った商品を迅速に供給できる態勢に切り替えた。こうした努力が奏功し、食品売り場の売上高は7年連続で増収を続けている。

 体験シフトに苦戦

 百貨店業界は爆買いが終息。中間層はモノから体験型消費にシフトし、対応に手間取っている。老舗の三越伊勢丹ホールディングスも屋台骨の三越日本橋本店、三越銀座店、伊勢丹新宿店の旗艦3店で客離れを起こしている。ほかの百貨店大手も同様で地方の閉店も目立つ。

 ただ、食料品と化粧品に関しては販売好調だ。食には多少お金を使っても良いという消費者は多く、百貨店の新鮮な食材を求めるニーズは高い。

 こうした傾向を読み取ってなのか、そごう・西武は西武所沢店(埼玉県所沢市)1階の婦人服売り場を17年中に食品売り場に転換する。需要の高い食品売り場を拡充し、売り上げを伸ばすのが狙いだ。

 インバウンド需要をうまく取り込めなかった東武池袋もほかの百貨店より早く食に活路を求めた。おそらく、衣料品よりも人間の食に対するこだわりの強さを感じ取っているからだとみられる。

 今年の池袋デパ地下の年末商戦は、東武の巻き返しで例年になく激しい。東武は昨年12月29~31日の3日間の売り上げが1日平均比で2.4倍を記録したが、今年はハナサンテラスなどで、それを上回る数字を目指している。

 一方の西武も品ぞろえの豊富さや緻密なデータ戦略を駆使して、稼ぎ時の年末商戦に臨む。ほかの百貨店が元日を休業する中、来年の初売りは1月1日から開始し、ライバルとの差別化に余念がない。(黄金崎元)

 ■西武百貨店池袋本店と東武百貨店池袋店の比較

 ≪西武池袋≫

  ・売上高(億円)

   1896

  ・開店

   1940年

  ・売り場面積(平方メートル)

   91555

  ・デパ地下の店舗数

   約200

 ≪東武池袋≫

  ・売上高(億円)

   1019

  ・開店

   1962年

  ・売り場面積(平方メートル)

   82963

  ・デパ地下の店舗数

   200以上

 ※西武の売上高は16年2月期、東武は15年度。西武の開店年は前身の武蔵野デパートを含む