EVへアクセル踏むトヨタ 日産とガチンコ勝負へ トランプ氏の影も…

 
日産の「ノート e-POWER」

 トヨタ自動車が慎重だった電気自動車(EV)開発にアクセルを踏み込み注目を集めている。追撃を受ける日産自動車や欧米勢との競争に加え、世界的な環境規制でEV市場が活性化するとの見方が広がる一方で、石油開発に前向きなトランプ次期米政権がネックになるとの見方もある。

 トヨタは2016年12月、「EV事業企画室」を新設すると発表した。EVの開発や量産化に向けた事業戦略を練り上げるのが狙いだ。本格的なEVを開発し、20年の東京五輪までに量産化する方向で検討している。世界最大となった中国市場でも、EV投入を検討すると表明した。

 トヨタはこれまでお家芸ともいえるハイブリッド車(HV)に加え、水素を燃料とした燃料電池車(FCV)をエコカー戦略の柱に据えてきた。その象徴が14年に発売した世界初のFCV量産車「ミライ」だ。走行中に二酸化炭素を排出しないゼロエミッション車が次世代エコカーの主戦場になりそうだが、トヨタはFCVを前面に押し立てているように映った。

 EVもまたゼロエミッション車だが、日本車メーカーの間では影が薄かった。ガソリン車に比べて一般的に航続距離が短いことや、パワー不足、充電が面倒といった指摘に加えて、巨人トヨタが乗り気でないことも、少なからず影響していただろう。

 孤軍奮闘していた感があるのが日産だ。6年前に世界初のEV量産車として投入すた旗艦ブランド「リーフ」をはじめ世界販売で先行。「EVといえば日産」という代名詞も業界内では定着してきた。

 トヨタの参戦、さぞや不安なのではと日産関係者に水を向けたところ、意外な答えが返ってきた。

 「むしろチャンス到来かもしれませんよ」

 トヨタが振り向いたということは、よちよち歩きだったEV市場が、もはや軽視できない存在になってきたことを意味する。

 トヨタだけではない。独フォルクスワーゲン(VW)はEVへのシフトを明確に打ち出し、国内での生産再編と9千人規模の雇用創出を発表した。排ガス不正問題からの立て直しという要因もあったとはいえ、独ダイムラーなど他の欧州勢もEVの開発体制を着々と整えつつあるのだ。

 日本をはじめ世界的に進む環境規制の強化に加え、エコから広げる企業ブランド、イメージアップの効果も無視できない。

 日産も動いた。16年11月、主力小型車「ノート」に初のHVモデルを追加した「e-パワー」を発売。この新モデル、HVだがまるでEV感覚、ややこしいが、日産のEV技術の粋を集めてつくられているというのがミソだ。

 ノートe-パワーは電気モーターで駆動を行うが、その電気はエンジンで発電して供給する。日産の星野朝子専務執行役員は「他社に先駆けてEVを開発してきた日産だからこそ世に出せた」と胸を張り、「もはや発明」とまで言い切る。実際、試乗したSankeiBizの記者も「走り出しが滑らかで素直に加速する。乗り心地もいい」と感心していたほどだ。

 HVでもEV技術の特徴や良さを知ってもらうことが開発の狙いの一つだが、それだけではない。ノートの手ごわいライバルはトヨタのHV「アクア」。販売面で後れをとってきただけに新モデル投入で挽回したい。ノートe-パワーは発売月の11月の車名別新車販売で見事首位に立つなど好スタートを切った。

 ただ、EVに本腰を入れ始めたメーカー各社にとって気になる動きもある。米国では、ピックアップトラックなど大型車を見直す動きが進んでいる。原油安に加えて、トランプ次期大統領が環境規制に慎重で石油開発を後押しするのではとの見方広がっている。

 世界的にみればEV開発に追い風が吹いているのは確かなようだが、メーカー各社は米市場の動向も見極めながら進むことになりそうだ。(柿内公輔)