空港・道路、企業が効率経営 物流、サービスなど 民間視点で改善
空港や道路といったインフラに一定期間の運営権を設定し、民間企業に売却する「コンセッション方式」が広まってきた。2016年7月1日から国が管理する空港では初めて仙台空港で始まり、同10月1日には愛知県の有料道路でもスタートした。経営の状況は-。
340億円以上を投資
「(16年の)10、11月の旅客数は昨年の同じ月を上回っています。この1年は一部航空会社の撤退があったものの、新規就航もあって民営化前よりも利用者は増える見通しです」。仙台国際空港会社の岡崎克彦営業推進部長(取締役)が胸を張る。
東京急行電鉄や前田建設工業、豊田通商などが出資して設立したこの空港会社が国に22億円を支払い、仙台空港の30年間の運営権を取得した。数年で340億円以上を集中投資、航空機の着陸料やターミナルビルでの物品販売、駐車場料金などの収入を伸ばして、早期の経営安定化を目指す。
スローガンは「東北の空を、世界の空へ」。「まず国際便を増やしたい。乗り入れを希望する航空会社とは、着陸料の引き下げだけでなく、東北全体を回る観光ツアーづくりや旅客の掘り起こしなどに、ワンストップで相談に乗っています」
空港から福島や山形を結ぶ直行バスの運行や仙台駅と結ぶ鉄道ダイヤの改善も働き掛けてきた。東北の農水産物の輸出を増やすため協同組合を今春に設立し共同で販売ルートを開拓、貨物量を増やして物流コストの削減にもつなげる方針だ。
ターミナルビルの改修にも着手した。到着ゲートがある1階に観光案内所を新設しJRやバス、ホテルの予約を可能にする。2、3階の物販には東北の代表的な品物を集める。「民間の視点からは、改善すべきことはたくさんあります」
中部空港に近い知多半島道路の半田料金所近くに前田建設工業、森トラスト、大和リースなどによる会社「愛知道路コンセッション」がある。愛知県道路公社が所有する有料道路8路線の管理・運営を引き継いだ。最長30年間、料金徴収の業務を行い計1377億円を公社に支払う。
本社は道路公社の事務所を活用、社員は事務補助も含め45人で当面は公社からの出向者が数人残る。敷地入り口にある案内板の名称は公社時代のままだ。「だんだんと変えていけばいい。まずは高速道路の現在の管理水準を維持することです」と東山基社長。民間にはない有料道路事業に慣れることを最優先する。
この会社が選ばれた理由の一つが「地域連携の推進」を強く打ち出したことだ。「パーキングエリア(PA)で地元の農協と知多牛や花卉(かき)を紹介・販売するイベントを開いた。PAを充実して利用者増を図り、周辺の観光地や産業との連携を進めます」
先行者の利得目指す
東山社長の前職は、前田建設工業の事業戦略本部副本部長。「欧米の建設会社でも仕事の中心がインフラ整備から管理・運営に移っている。コンセッションへの参加は、自ら事業主体になる『脱請負』を掲げる前田の戦略であり、『先行者の利得』を目指します」
“自前”の道路を持てば、どのタイミングに修繕すると維持管理や更新のコストを最小化できるのかデータを集めることもできる。「一般道路の管理の仕事を自治体から受けることにも将来、役立つはずです」と先を見据えている。
滋賀県大津市は昨年11月、西日本一料金が安いといわれる市のガス事業の一部を2019年4月から民営化する方針を公表、電気やガスなど15社から関心がある旨の表明があった。市と民間が出資する官民連携の会社が、小売りや導管の保守管理などを行う仕組みを想定する。
「17年4月からのガス小売りの全面自由化で、この地域に進出する企業があるかもしれない。電気など他のエネルギーとのセット割引など、公営企業ではできない新サービスが入ってくれば太刀打ちできない」と危機感を募らせた結果だ。
だが課題もある。奈良市は上下水道の民営化を進める条例案を昨年の3月議会に提出したが、同意は得られなかった。説得できるだけのメリットを示すことができるかが、自治体にとっての最大の課題だ。
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