極秘計画再起動か ジョブズ氏「最後の夢」へ…アップルが自動車開発に本腰

 
来日して記者会見するアップル創業者スティーブ・ジョブズ氏=2003年11月

 米アップルが自動車開発に本腰を入れる。自動運転を研究していることを初めて公表。極秘プロジェクトが再起動したとの観測も飛び交い、発表は数年後との気の早い情報も。開発は自動車の一部にとどまるとの見方もあるが、なおも秘密のベールに包まれたまま。アップルが創業者スティーブ・ジョブズ氏の「最後の夢」に向けて走り出す。

 市場がざわめき立ったのは、昨年の暮れのこと。アップルが米道路交通安全局(NHTSA)に提出した書簡で、自動運転技術に積極的に投資を行っていることを明らかにしたのだ。

 アップルが自動運転の技術開発を手がけていると公に認めたのは、これが初めて。書簡によると、アップルはさままざな分野における自動化に「心を躍らせて」おり、AI(人工知能)による機械学習や交通を含めた自動化システムの研究に多くを投資していると表明。交通事故の削減など「自動運転車がもたらす多大な社会的利益の実現」に向け、政府と連携したいとまで言及している。

 アップルが電気自動車(EV)開発に本格参入するのでは…。自動車・IT業界を噂がかけめぐったのは2015年2月のこと。EV用電池の特許申請や技術者採用を拡大しているという観測だった。

 その観測を裏付けるように、米メディアは、アップルが極秘にプロジェクトを立ち上げたと報じた。コードネームは「Titan(タイタン)」で、目指すは自動運転によるEVだ。責任者には、iPadやiMacなどのヒット商品を手がけた元役員のボブ・マンスフィールド氏が指名され、一時は1千人以上の技術者が携わったとささやかれた。

 EVメーカーのテスラ・モーターズを筆頭に自動車業界からエンジニアも引き抜きまくったため、物議を醸す事態になった。

 ところが、16年9月、タイタンは突然中断され数十人が解雇されたと米メディアが報じ、いったん騒動はしぼんだ。報道によれば、自動車本体の開発は手がけず、設計やソフト面にシフトする方向に傾いたという。確かに、グーグルがホンダと完全自動運転の共同研究を始めるなど、IT大手と自動車大手が提携する例も増えてきた。

 ただ、IT系ニュースサイトのギガジンによれば、タイタンの従業員は、プロジェクト自体が中止されたわけではなく、再起動するとの説明を受けたとされる。当初は19年に発表が予定されたが20年に延期されたとみられるという。

 今回のアップルの表明はその情報を裏付けたともみられ、業界や市場は再び騒がしくなってきた。アップルはiPhoneをクルマのキーとして使える技術の特許も取得している。

 また、アップルは自動車本体の開発を諦めていないとの見方もある。すでにグーグルなどライバルが自動車関連事業で先行するなか、「参入しても差別化が難しい。

アップルは話題作りのためにもインパクトがほしいはず」(自動車業界関係者)というわけだ。

 そのために既存の自動車メーカーを飲み込むのではとの観測も絶えない。これまでも欧米メディアが、テスラやマクラーレンの買収を検討していると報じた。アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)がかつてテスラのイーロン・マスクCEOと会談した際も騒ぎになり、マスク氏が「買収の可能性は低い」と火消しに追われた。

 アップルカーを早く見たい…。待ちきれないファンらはなんとデザインコンテストまで実施。クラウドソーシングサイトの「フリーランサー」で、優勝者は1万5千ドルもの賞金をゲット。車体フォルムはまるでアップルTVのように滑らかで、前後のガラスは超高解像度のLEDスクリーンになっている。本人いわく「アップルの伝統に基づいたデザイン」だとか。

 ジョブズ氏は一度は追われたアップルに復帰し、見事に業績を回復させたが、病で急逝した。そのジョブズ氏が最後に手がけたかった夢のプロジェクトが「アップルカー」ないしは「iCar」だったと、親友は語っている。

 iPhoneやiPadなど革新的商品を次々と送り出してきたアップルだが、最近は勢いに陰りも。腕時計型端末のアップルウオッチも今ひとつぱっとしない。「さすがアップル」と世間をあっと言わせる奥の手が自動車開発なのだろうか。(柿内公輔)