頂上決戦 VWがトヨタ下した理由は… 相次ぐ災害、主力市場で明暗
トヨタ自動車の5年連続グループ世界販売台数年間首位の達成が絶望的となった。ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の2016年のグループの世界販売台数は1031万2400台だったのに対し、トヨタの見通しは1009万台で約20万台の大差をつけられての敗北となる。1000万台というハイレベルの頂上決戦の明暗を分けたのは、自然災害などによるトヨタの生産影響と主力市場での優劣だった。
5年ぶり首位陥落
「困難な条件下で安定した営業成績を残すことができた」
VWのミュラー会長は、10日発表した16年のグループ世界販売台数が排ガス不正問題に揺れる中でも前年比3.8%増で過去最高となったのを受け、こうコメントした。
これに対してトヨタの16年1~11月のグループ世界販売台数は0.1%増の921万9000台で、一昨年12月の世界販売(87万台)から横ばいでも年間では1009万台程度で追いつけない。トヨタは12年に米ゼネラル・モーターズ(GM)を抜き世界販売で首位に浮上して以降、4年連続でトップを守っており、首位陥落となれば5年ぶり。VWはここ3年間は毎年世界2位で、トヨタとの差は13年が25万台、14年が10万台、15年が22万台だった。
VWは15年も1~6月期の世界販売がトヨタを上回り首位だったが、排ガス不正問題で下期に失速して年間ではトヨタの後塵(こうじん)を拝した。不正問題に揺れたにもかかわらず、今回、VWが16年に年間首位となるのには理由がある。
一つがトヨタの国内工場の停止影響だ。16年2月にグループの愛知製鋼で爆発事故が起き、国内の車両生産を約1週間停止。4月の熊本地震ではアイシン精機の子会社が被災し合計で約17万台の減産となった。5月にもアイシンの別の子会社で爆発事故があり、生産がさらに約1万台減った。この余波で出荷が遅れ販売にも大きな影響が出た。
もっとも最大の要因は主力市場での明暗だ。トヨタは世界販売の4割を依存する米国で、得意とする燃費性能の良いセダン系の販売がガソリン安で低迷。VWも排ガス不正問題が最初に明るみに出た米国は2.6%減となったが、最主力の中国市場が12.2%増で全体の販売台数を押し上げ、トヨタとの年間の販売差につながった。
米での販売体制強化
16年は自然災害や事故に振り回され首位から転げ落ちるトヨタだが、捲土(けんど)重来に向け着々と手を打つ。生産面では16年上期の減産分を下期の増産でほぼ取り戻した。製品ラインアップの拡充も急いでいる。
国内では16年11月に小型ワゴン車「タンク」と「ルーミー」に加え、12月には世界戦略車と位置づけるスポーツ用多目的車(SUV)「C-HR」を投入した。米国でも、ガソリン安で人気のSUVやピックアップトラックの販売体制を強化。米国での新車販売台数が盛り返し始めるなど反撃に向けアクセルを一気に踏み込む。
トランプ次期米大統領の経済政策による市場変動リスクはあるものの、トヨタは17年の自動車各社による米新車販売台数の合計が1720万台に上り、3年連続で1700万台を超えるとの予測を示す。一方、中国も小型車を対象にした減税の延長により市場の落ち込みは回避される見通し。米中市場の堅調が見込まれる中、17年も年間販売台数1000万台以上の頂上決戦はさらなる激化が必至。
それぞれが得意とする主力市場で、ニーズに応じた品ぞろえの強化や価格対応などで適時適切な戦略を繰り出せるかが決戦の行方を左右することになりそうだ。(今井裕治)
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