LIXIL、ベネッセ…日本でプロ経営者が定着しないワケ 相次ぐ降板劇を読み解く
企業を渡り歩きトップを務める“プロ経営者”の退陣が平成28年も相次いだ。米ゼネラル・エレクトリック(GE)の上級副社長から鳴り物入りで住宅設備の最大手、LIXILグループの経営トップに就いた藤森義明氏(65)は海外企業の買収を積極的に行ってきたが、中国の水栓金具メーカーによる粉飾決算の責任を問われ辞任した。米アップルの日本法人、日本マクドナルドホールディングスの経営トップから、ベネッセホールディングスの会長兼社長に転じた原田泳幸(えいこう)氏(68)も、顧客情報の大量流出事件を契機に退任した。米国などと異なりなぜ日本ではプロ経営者が根付かないのか。ヘッドハンティングを主力業務とする「ヘッドハンター」のサーチファーム・ジャパンの武元康明会長と読み解く。
武元氏がまず指摘するのは、日本と米国では企業風土が大きく異なることだ。
米国企業は父性文化に立脚したトップダウン型。すべての知識は数字や記号などに形式化でき、経営者は指示が正確に末端へ伝わっていくものだと認識している。人を人として思わず、機械としてとらえるのが、典型的なマネジメント手法だ。また、自分の意見に合わないものはすべて排除する傾向が強い。
これに対して日本の企業は母性文化に基づく和を大切にする。トップダウンとは異なり、現場の声を踏まえたアイデアや提案を大切にするボトムアップ型。「その違いを認識しないままに安易に西洋の文化・文明を取り入れてしまって、アレルギー反応を起こした結果、プロ経営者の相次ぐ降板劇につながったのではないか」と指摘する。
また、日本には長寿企業が多い。環境の変化に敏感で人を大切にし、従業員の癖を見抜いた上でイノベーションする力に秀でている点が共通項だ。効率性を追求する欧米の会社からすれば「何でそんなところと取引を行っているのか」といった“三ちゃん経営(父ちゃん、母ちゃん、兄ちゃんの家族経営)”のような企業とも人間関係でつながり、顧客にしている点も長寿の秘訣(ひけつ)。こうした企業文化をないがしろにし、米国流経営を取り入れると齟齬をきたすのは必至だ。
一方、武元氏は「グローバル化に乗り遅れてきた歴史は、結果として日本にとっていいことばかりだった」と話す。
そのひとつが、産業革命に乗り遅れたこと。米国は株式市場から資金を調達し短期間で結果を求められるようになったのに対し、日本は銀行による融資が主流となった。その結果、「『返済に長い時間を要するかもしれないが、いいものを作ってください』といった信頼関係を構築し、終身雇用に代表される日本式の経営が誕生した」。
それでも米国式経営を求める企業は少なくない。しかし、武元氏は安易な経営姿勢に警鐘を鳴らす。
実際、米国では日本型経営を見習い、中長期的な観点を重視した経営手法を取り入れている事例が顕在化している。米国のビジネススクールも、エンロンの粉飾事件やリーマン・ショックを踏まえ「どういった人材を輩出したのだ」と強く批判されたのを受け、日本型経営の授業を強化している。これだけ注目されているのに、完全な周回遅れで株主至上主義を目指そうとする動きは収まらない。
ヘッドハンターとして経営トップと頻繁に接しているだけに「日本には独自のスタンスがあることを、しっかりと考え直すことが必要。日本と西洋の仕組みの違いを学び、西洋追随型を『うまくいくはずがない』と理解している賢い経営者は少なくない」と指摘する。
日本の上場会社の場合、外部から最高経営責任者(CEO)に就任する割合は3~4%と、世界平均(23%程度)に比べるとかなり低い。「逆に日本の強みとしてとらえるべきだ」とするが、一方で、こうした傾向は中小企業にも当てはまるとみられ、深刻な事態に発展する可能性もある。
中小企業は後継者が存在しない事業承継という問題に直面している。武元氏もある企業の経営者から「子供に継がせたくない」との相談があり、次のトップ候補となる人材を紹介した。取締役で入社して着実に実績を積み上げていったが、最終的に「やっぱり株式は譲渡できない」となってしまい、後継者問題は宙に浮いている。
事業承継はものづくりの技術を伝承していくためにも、克服しなければならない課題で、この点においてこそプロ経営者の活躍が期待される。(経済本部 伊藤俊祐)
■武元康明(たけもと・やすあき) 航空業界、大手商社系人材ビジネス会社を経てサーチファーム・ジャパンの設立に参画。2007年1月から社長。今年1月から現職。48歳。石川県出身。
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