ナカムラ 商品企画力で守る神戸のマッチ文化

兵庫発 輝く
神戸市で唯一のマッチメーカーとなったナカムラの工場。箱詰機は受注時に稼働させる=神戸市長田区

 国産マッチの9割以上を生産する兵庫県。今年、開港150年を迎えた神戸港の存在が大きかった。繊維とともに海外に輸出された軽工業品として、港に近い利点を生かして多くの会社がマッチを生産した。今では県西部の姫路市などで何軒か残るが、神戸市では「ナカムラ」が唯一の製造販売会社に。同社の中村和弘社長(52)は「火をつけるという実用面だけでなく、防災グッズやインテリアなど新たな商品価値を持たせて販路を広げたい」と意気込む。

 ◆BtoCへの転換

 中村社長によると、マッチとその技術が本格的に入ってきたのが明治の初め頃で、国内でも生産されるようになったという。「神戸港から中国などアジアに輸出された。繊維製品などと並ぶ日本の重要な輸出品だった」と説明する。

 同社は1910年創業。当時、マッチは生活必需品で、国内での需要はもとより、高品質の国産マッチは海外でも評判が良く、同社も輸出するメーカーに軸木を供給し事業を拡大させた。

 マッチの需要は時代とともに変化した。戦後は海外から安いマッチが大量に輸入され、国内メーカーは広告用マッチに活路を見いだした。大手商社や製薬会社、飲食店など、さまざまな業界の販促用広告マッチを請け負ったが、平成のバブル経済崩壊後に続いた不景気のあおりで需要は先細りに。同業他社も次々とマッチの生産を縮小し、事業転換していったという。

 そんな中、同社はBtoB(企業間取引)からBtoC(個人向け販売)へと方針転換した。「他業種の先輩経営者からのアドバイスがヒントになった」と中村社長は振り返る。その第1号の商品がマッチ箱の表裏に「異人館」や「神戸港」など神戸をイメージした2コマ漫画を載せた「2こまッチ」だ。2007年、神戸ブランドの新商品として内外に売り出す神戸市産業振興財団の「第1回神戸セレクション」に選定され、観光地の土産物店などで飛ぶように売れた。16年には神戸開港150年記念バージョンのマッチも出品し、根強い人気を誇っている。

 同社の個性的な商品は箱のデザインだけではない。燃やすとビャクダンの香りが広がるフランス製の紙とセットにした「マッチ&パピエル」や、バースデーケーキ用のろうそくに火をつけやすくするため、通常より約2倍の長さにした「バースデーマッチ」、マッチ棒の頭薬に防水加工を施した「ポケット缶マッチ」など、企画力を武器にしたマッチを世に送り出した。

 ◆防災グッズで注目

 マッチの有用性が改めて見直されるきっかけになったのが、2011年の東日本大震災。電気やガスのインフラが寸断され、電灯や暖房が使えなくなった被災地で、マッチでともすろうそくの明かりが重宝がられたという。

 同社は08年から、ふたの内側に側薬を付けたスチール缶入りマッチを製造販売していたが、震災後のニーズの高まりを受け、ろうそくをセットにした「防災用缶詰マッチ」を販売した。「ライターは徐々にガスが抜けていくが、缶入りマッチは適切に保存すれば長く使用できる」と中村社長はアピールする。

 さらに、実用品のマッチを“雑貨”として扱うことで、新たなニーズを掘り起こした。かつての広告マッチを「レトロラベル缶マッチ」として復刻。昔ながらの味わいのあるパッケージデザインが若い女性を中心に人気を集める。

 生産が減少して厳しさが増す兵庫県内のマッチ産業だが、同社は商品企画力で伝統を守り続けている。(岡本祐大)

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【会社概要】ナカムラ

 ▽本社=神戸市長田区浜添通6-1-2

 ▽設立=1910年7月

 ▽資本金=1600万円

 ▽従業員=8人

 ▽売上高=1億2000万円(2016年3月期)

 ▽事業内容=マッチ製造のほか、各種印刷物、販促用品製造、工業用資材販売

                 ■ □ ■

 □中村和弘社長

 ■さまざまなニーズ掘り起こしたい

 --販促用の広告マッチから“売る”マッチに転換したきっかけは

 「バブル経済が崩壊して以降、企業の経費節減などで当時主流だった広告マッチの需要が落ち込み、生産量が減った。業界として不安感が広がり、私自身、事業転換も考えた。そんなとき、他業種の先輩経営者から『誰がマッチを使うのか。消費者目線でほかのやり方を考えてみれば』とアドバイスを受けた。受注先のことばかり考えていたと気付かされ、独自商品の企画ができないかと発想を変えた。まだ対応できる段階から『マッチの仕事がなくなるかもしれない』と危機感を持てたことは大きかった」

 --百貨店などの催事出店では自ら売り場に立っている

 「売り場に立つと、さまざまなニーズがあることを発見できる。ある若い女性客がレトロなパッケージのマッチを見て『かわいい』といって足を止めてくれた。不思議な感覚だったが、実用性だけでなく雑貨としての新たな商品価値があると気付かされた場面だった」

 --防災用の備蓄品としても見直されている

 「東日本大震災直後は一時生産が追いつかない状況になった。われわれメーカーも、いざというときに備えて安定供給できる体制にすることで責任を果たしていきたい」

 --マッチの需要は今後も減っていくのだろうか

 「ただ火を付けるだけならライターも同じ。それでも仏壇のろうそくや誕生日のケーキ、キャンプ地でのアウトドアといった場面で、あえてマッチを使うという人は多い。日本には文化的にマッチを使うことが染みついているのだと思う。まだまだ商品のアイデアは隠れているはず。さまざまなニーズを掘り起こしていきたい」

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【プロフィル】中村和弘

 なかむら・かずひろ 甲南大卒。アパレルメーカーを経て、1993年にナカムラ入社、2009年から現職。52歳。兵庫県出身。

                 ■ □ ■

 ≪イチ押し!≫

 ■神戸開港150年記念缶マッチ

 神戸ブランドとして認証する2016年の「神戸セレクション10」に選定されたスチール缶入りマッチのセット。神戸を中心に活躍するイラストレーター、山崎秀昭さんがデザインした神戸開港150年記念のキャラクター「イルカ船長」や「カモメの水兵さん」「旅立つタコ婦人」といったラベルが貼り付けられている。

 スチール缶のため、外からの衝撃にもつぶれにくいうえ、側薬もふたの内側につけていることで湿気にも強く、長期保存に適した商品。万が一に備えて一家に備蓄しておきたい一品だ。

 ナカムラは第1回神戸セレクションに選定された「2こまッチ」から、マッチ箱の表裏に山崎さんの2コマ漫画を採用。第10回神戸セレクションでも山崎さんとの“二人三脚”で選ばれ、個性的な商品を提供し続けている。税込み1620円。