トヨタが全ての広告をやめる日 宣伝費かけずにヒット生む時代

高論卓説

 ■ヒット作、ネットのクチコミが生む時代に

 「シン・ゴジラ」「君の名は。」「この世界の片隅に」--。いずれも2016年に大ヒットを記録した映画だが、これらに共通する特徴をご存じだろうか。実は、公開前の宣伝をほぼ行わず、公開後のネット上でのクチコミやテレビの情報番組を通じて多くの人が知るようになった映画だ。つまり、いずれも宣伝にカネを掛けていない映画である。

 一方、宣伝にカネを掛けた映画はどうなのか。実は、定番である大型作品が大ヒットにつながりにくくなっている。ハリウッドの人気シリーズ続編、原作者や監督が大物、という作品には大きな宣伝予算を掛けているのだが、大コケしたものもあった。映画業界を取材する記者に聞くと「良い意味でも悪い意味でも見込み違いが多い年だった」とのことだ。

 映画だけではない。改めて考えてみると、16年は「宣伝にカネを掛けていないヒット」がめじろ押しだった。7月に米ナイアンティック社がリリースした「ポケモンGO」は、宣伝せずとも公式サイトにアップされる情報をメディアが次々に報道。世界中のスマートフォンユーザーに知れ渡り、空前のヒットになった。

 ピコ太郎も「YouTube(ユーチューブ)」にアップしたプロモーション動画がヒットの発信源。ピコ太郎が所属するエイベックスとしては、宣伝費を掛けずにメジャー化させたことの意味は大きいだろう。CDアルバム「PPAP」の販売につなげることができたため、きわめて好採算だったはずだ。

 ひょっとして宣伝広告は不要という時代が来るのではないか-。そんなことを考えていたところ、もう一つ興味深い話を聞いた。大手ゲームソフト会社の社長から聞いたのだが、「いまや続編の発表は公式サイトに情報を載せれば事足りる。1時間もすれば世界中のファンに広がっていく。かつては専門誌やウェブサイトに広告を打っていたがやめた」。

 つまり、広告宣伝費(その主な受け皿であるマスメディアにとっては広告収入)は、大きな曲がり角に来ていることがわかる。かつては「宣伝をせずにクチコミでヒットにつなげていく」ことは珍しい事例だったが、今やネットクチコミの時代であり、クチコミヒットは続出している。マーケティングを行う側としては「宣伝費を使わずにヒットさせるのが一流」と評価される時代になっているのである。

 そこでタイトルにあるトヨタ自動車の話だ。今年の元日、トヨタ自動車は例年出していた元日の大型広告を全て取りやめた。これはマスメディアにとって極めて大きなショックだ。「トヨタに倣え」ということで他の大手企業もお付き合い的な広告から手を引こうとするだろうし、新聞以外のメディアにも影響が及んでいくことは間違いない。

 しかし、トヨタにしてみれば合理的な判断だ。「宣伝費を使わずにヒットさせるのが一流」という時代になった今、広告をゼロにするような決断をしてもおかしくない。多くの一流企業が広告を出さなくなる日-。そんな日は意外にあっという間にやってくるだろう。

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【プロフィル】山田俊浩

 やまだ・としひろ 早大政経卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。「週刊東洋経済」の編集者、IT・ネット関連の記者を経て2013年10月からニュース編集長。14年7月から東洋経済オンライン編集長。著書に『孫正義の将来』(東洋経済新報社)。