日本取締役協会が「取締役・執行役員研修」 攻めのガバナンス普及 日本企業に稼ぐ力を

 
グランフロント大阪で開かれた「取締役・執行役員研修」の様子=2日、大阪市北区

収益力高める“攻めのガバナンス”

 企業経営者や経営に関係する専門家、研究者らで構成する日本取締役協会が、大阪での研修展開に乗り出している。2日には、グランフロント大阪で「取締役・執行役員研修」を実施。21人の企業経営者や取締役らを集め、コーポレートガバナンスを活用した企業経営の事例紹介や制度、取締役会の本来の役割などについて、最先端の知見を紹介した。

制度の設計から整備、活用へ

 日本企業に稼ぐ力を-。

 日本取締役協会は、コーポレートガバナンス(企業統治)という仕組みをうまく活用することで、日本企業の収益力を高めようという“攻めのガバナンス”の普及に熱心な取り組みを見せてきた。

 その狙いは、経営者や取締役会に本来の役割を徹底していくことでもある。複数名の社外取締役を置き、取締役会での議論に緊張感を持たせるとともに、業績向上に向けたプレッシャーを経営者に対してかけていく。この結果として、業績、特に、株主資本利益率(ROE)などの上昇や中長期の成長を促そうというわけだ。

 コーポレートガバナンスをめぐっては2014年以降、監査等委員会設置会社の新設などを柱とした会社法の改正、機関投資家などに投資先企業の経営監視などを促すスチュワードシップ・コード、そして、上場企業に対し取締役会の機能強化を促すコーポレートガバナンス・コードの制定と続いてきた。この2、3年ほどの間で、上場企業の取締役会をめぐる環境は大きく変わった。

 これに合わせ、上場企業は制度に対する対応を急ピッチで進め、形の上ではコードが求める要件を多くの企業がクリアできる状況になっている。ただし、形を整えても、内容が伴わなければ意味がない。そこで同協会は、制度設計の段階からその内容について、熱心に提言を続けてきたほか、制度整備の段階に移行後は、その仕組みをどう企業の成長に結びつけるのかについて、セミナーなどを通じ啓発してきた。今回の大阪でのセミナーは、この動きをより強化するものでもある。

企業の“稼ぐ力”取り戻す役割

 こうした趣旨に基づき、2日は実際にこうした仕組みを活用して高収益企業への変身を遂げたりそなホールディングスの取締役兼代表執行役である古川裕二氏を講師に招き、ケーススタディーを行った。

 古川氏は、りそなグループがバブル崩壊後の銀行再編や不良債権処理、2000年代初頭の公的資金注入といった厳しい経営状態から脱却、再生を遂げた過程を説明するとともに、2000年代後半からの営業力強化策や10年以降に持続的な成長が実現していった経緯などについて紹介した。この中では古川氏は、同社の再生と成長を促す原動力となったコーポレートガバナンス体制について言及。同社の取締役10人のうち6人が独立社外取締役になっている現状などを解説している。

 同社は、社外取締役の独立性要件を定めている。例えば、5%以上の議決権を保有する株主や取引先の連結売上高の2%以上となる取引関係者、同社グループから過去3年の平均で1000万円以上の報酬を得ている弁護士やコンサルタントには独立性を認めない、といったように具体的な基準が特徴だ。さらに、指名委員会は取締役の選解任議案の決定に加え、「サクセッション・プラン」を通じてグループ銀行役員の選抜や育成にも関与する透明性のある仕組みも確保している。

 この「サクセッション・プラン」は07年6月に導入したという。持続的な企業価値向上を図るための、経営トップの役割と責任を継承するメカニズムで、「次世代トップ候補者」から「新任役員候補者」までを対象にしている。外部コンサルタントからさまざまな助言を得ることで客観性を確保するとともに、評価内容はすべて指名委員会に報告される仕組みになっているという。

 コーポレートガバナンスという仕組みの本来の役割は、経営者に対して業績向上へのプレッシャーをかけるとともに、その経営者に引き続き経営を任せていくべきか否かを判断するという点にある。しかし、日本企業では能力要素などよりも序列が優先されるケースが多い上、取締役会も社員や元社員で占められている場合がほとんどだった。これだと、経営者に対して業績向上が強く促されないばかりか、今後経営を任せるべきではないという判断もされ難い。

 りそなは、こうした古い体質を廃し、コーポレートガバナンスという仕組みを活用することで企業の“稼ぐ力”を取り戻すとともに、強化していった一例といえる。

 現在では「社外取締役には、株主やステークホルダーの目線で取締役会に参加してもらい、執行部門は外部に向かって説明することを前提に、計画立案するようになった。社外と社内取締役が真剣勝負で意見交換を行っている」(古川氏)という状態が望ましいのだ。

大阪では初のセミナー開催

 大阪でのセミナーは、この古川氏による事例紹介に続き、西村あさひ法律事務所大阪共同代表である臼杵弘宗氏が「取締役に求められる法的義務と責任」をテーマに登壇。コーポレートガバナンス・コードに基づいた取締役会と取締役の役割について解説した。

 さらに、日本銀行金融高度化センター企画役で、日本金融監査協会を主宰する碓井茂樹氏が「取締役会による監督、監査の枠組みの構築-正しい『3線』アプローチ」をテーマに講演。主に金融業界で進みつつある、グローバル水準の監督・監査と、内部統制部門や監査部門の活用法についての考えを示した。

 最後に登壇したKPMGコンサルティングのディレクター、林拓矢氏が「取締役会の実効性評価」をテーマに、評価制度などの概観や、スケジュール、アプローチの方法などの具体的な事例を紹介。あわせて、評価で認識されやすい課題や開示の考え方などについても解説した。

 日本取締役協会はこれまでも、こうしたセミナーを開催してきたが、大阪での開催は今回が初めて。

 コーポレートガバナンスという仕組みを活用して企業業績の向上をめざす取り組みを今後も支援していく考えで、地方でのセミナー開催についても積極的に進めていくという。

コーポレートガバナンスで成長の企業を表彰も

 日本取締役協会は、コーポレートガバナンスを充実することにより、企業活動を発展させ、日本経済を元気にすることを目的に2002年設立された。経営者、専門家、研究者、独立社外取締役、機関投資家など、経営に携わる人々で構成する。設立以来、コーポレートガバナンスに関係する制度創設を提言、これに向けた研究も続けてきた。仕組みができた現在では、新任取締役に対するセミナーなどを開催。取締役や取締役会の本来の役割をはじめ、仕組みを業績向上にどう結びついていくのかを説いてきた。

 15年には、コーポレートガバナンスを用いて中長期的に健全な成長を遂げている企業を表彰する「コーポレート・ガバナンス・オブ・ザ・イヤー」を創設。仕組みの活用で好業績を実現している“具体例”を示し、この取り組みの実効的な普及を後押ししている。

 「コーポレート・ガバナンス・オブ・ザ・イヤー」の第1回の大賞企業はブリヂストン。このほど表彰式が行われた2016年の大賞企業はHOYAだった。