「フィンテック」が金融を一変 顧客拡大に向け新業態化も加速
高論卓説3日に「第38回金融審議会総会・第26回金融分科会合同会合」を金融庁で傍聴した。1月の委員改選後初の会合ということもあり、新たな会長に岩原紳作・早稲田大学大学院法務研究科教授が選任されたほか、そうそうたるメンバーが顔をそろえた。
討議テーマは、(1)日本の市場・取引所をめぐる動向と今後の課題(2)ITを活用した先進的な金融サービス「フィンテック」や決済高度化をめぐる動向と今後の課題(3)検査・監督のあり方の見直し-などの3点。
全体を通して、(2)のフィンテックや決済高度化をめぐる動向について、委員の注目の高さが際立った印象を持った。同テーマについて事務局が用意した資料の冒頭には、「欧米の銀行では、最近の環境変化が危機感を持ってとらえられ、そうした変化に戦略的に応じる動き」があるとして、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏の「Banking is necessary,bank are not」との発言や、米JPモルガン・チェース最高経営責任者(CEO)のジェイミー・ダイモン氏の「われわれは、米グーグルや米フェイスブック、その他の企業と競合することになるだろう」との発言が紹介されていた。
また、米国の一般利用者の意識調査(2014年3月公表)の結果、33%もの人が「銀行は全く必要なくなる」と答えていることも目を引いた。14年でこの数値であることから、現状ではさらに「銀行は全く必要ない」と考える人の割合は高まっていることであろう。
このフィンテックや決済高度化については、伊藤元重委員(学習院大学国際社会科学部教授)が、「イノベーションとは破壊という意味でもある」と指摘したことは刺激的であった。ITイノベーターは、新たなニーズをとらえたベンチャー企業のみならず、グーグルやフェイスブック、米アマゾンなどの巨人もおり、競争はまさにグローバルに展開される。
また、新委員となる志賀俊之氏(産業革新機構会長兼日産自動車副会長)と、朝田照男氏(丸紅会長)の2氏による指摘は、経済界の現場での体験に裏打ちされた発言だけにうならされた。志賀氏は、日本の成長力を底上げするためには、M&A(企業の合併・買収)などダイナミックな企業の再編が必要であり、金融機関がリスクを取った信用の供給が必要であると強調した。
朝田委員は「フェア・ディスクロージャー・ルール」(企業が、未公表の決算情報などの重要な情報を証券アナリストなどに提供した場合、速やかに他の投資家にも公平に情報提供することを求めるもの)について言及。企業のトップやIR担当役員がアナリストと面談するときは、1対1のケースが多く、そこでの会話は経営に関わる数値や戦略など突っ込んだ内容となりがちで、そうした企業IRの現場に即した法整備が必要だろうとの見解を示した。いずれも卓見であろう。
一方、この金融審議会総会に平仄(ひょうそく)を合わせるように、三菱UFJフィナンシャル・グループがITベンチャー企業など外部の企業に対して銀行が保有する情報を公開する「オープンAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)」を進めることを決めた。
外部企業は金融機関からAPIの公開を受けることができれば、金融サービスをあたかも自社サービスとしてシームレスに顧客に提供できる環境が整う。フィンテック企業にとってはまさに朗報であり、金融機関側もフィンテック企業との連携を進めやすくなり、金融サービスの向上による顧客拡大が見込めると期待されている。フィンテックは金融の風景を一変させかねない。
◇
【プロフィル】森岡英樹
もりおか・ひでき ジャーナリスト。早大卒。経済紙記者、米国のコンサルタント会社アドバイザー、埼玉県芸術文化振興財団常務理事を経て2004年に独立。59歳。福岡県出身。
関連記事