高級ファッション、買い取りで新循環

日本発!起業家の挑戦
マテリアルワールドの矢野莉恵氏(左)

 □マテリアルワールドCEO・矢野莉恵氏に聞く

 ネット通販業界でイノベーションを興すことは、どんどん難しくなっている。既にさまざまな売り方が試し尽くされ、専門性やテーマのバリエーションだけが増えていくかのようだ。米・ニューヨーク発のMaterial World(マテリアルワールド)も、ちょっと見たところはただのファッション通販サイトだが、見かけにだまされてはいけない。

 ネット通販サイト事業は、一般にリスクが低く初期投資も少なくて済むといわれる。マーケティングに力を注ぎ、プラットフォームを準備して、あとは売り手と買い手にできる限りのことをさせるのが普通だ。しかし、マテリアルワールドの共同創業者、矢野莉恵氏は通常とは異なるアプローチで、女性のファッションの楽しみ方を変えようとしている。

 ◆2つの体験つなぐ

 --マテリアルワールドは、ファッションアイテムの買い取りサービスですね

 「はい。ニューヨークに拠点を置き、女性がクローゼットの中身を一新できるサービスを運営します。高級ファッションアイテムを必要なくなった人から買い取り、欲しい人に販売します。買い取るブランドのリストを用意しているので、そのブランドのアイテムを持っている人は、買い取りキットを取り寄せて宅配便で送ることができます。代金はクレジットとしてすぐに受け取ることができ、新しい洋服を購入する際に使えます」

 --新しい洋服ですか。現金で受け取るのではないのですね

 「ユーザーは、マテリアルワールド専用のプリペイドデビットカードを持っています。古い洋服を送ったら、その下取り代金がカードに追加され、最新のファッションアイテムを購入するのに使えます。洋服を売ったお金で、スターバックスでコーヒーを飲んだりすることはできません。ファッション専用の通貨で受け取るようなイメージです」

 --カードのアイデアは素晴らしいですね。物理的なカードが財布の中にあると、ユーザーはマテリアルワールドを思い出して、また使おうという気になりますよね。リアルとデジタルの橋渡しになっています

 「その通りです。ネットショッピングと実際の店舗での買い物という2つの体験をつなぐものです。新しい洋服を買うのはほとんどの人が好きだと思いますが、クローゼットの中身を整理するのはストレスがたまり、時間がかかるのでいやだという人も多いです。買い物と古い洋服の整理の循環を1つのサイクルとしてユーザーが楽しめるようにするのが私たちのサービスです」

 --ファッションや高級ブランド品の委託販売には競合が多いです。マテリアルワールドの最大の特色は

 「ファッションアイテムの再販売はもう何十年も存在する業界です。イーベイ、ヤフーオークションはもちろん、中小サービスがひしめき合っています。私たちは中古の洋服を売っているだけではありません。ユーザーのライフスタイルの一部であるファッションをサポートし、新しいファッションアイテムについて情報を届けています。マテリアルワールドのサイトでは流行や最新のファッションについての情報獲得、下取り、提携サイトを通じた新品購入、中古品購入がワンストップでできます」

 --デビットカードも他にはない戦略ですね。提携するネット通販サイトや店舗で使えるお金がカードにたまれば、もちろんユーザーは自分の洋服を売ってためたお金以上に新しい洋服を買うでしょう。売り上げから手数料を得ているのですか

 「はい。提携店舗は700以上あります。正直に言って、まだいろいろなビジネスモデルを試して、最適なものを探しているところです。ユーザーのデビットカード利用履歴から収集したデータが私たちにとって何よりも価値の高いものです。ネット通販と店舗、異なるブランドや購入場所など多岐にわたる流行が見えてくるからです。今でも洋服はリアルな店舗で購入されることが多いです。これほど網羅的なファッション市場全体図を持っているのはマテリアルワールドぐらいだと思います」

 ◆売り手に一番便利

 --マテリアルワールドは委託販売を基本とせず、中古の洋服を購入して在庫を持っていますね。スタートアップにとってリスクが高いのでは

 「そのように見えるかもしれませんが、どのアイテムがどれぐらいで売れるかよく理解していますから問題ありません。アイテムを引き取ってから2カ月以内に売れるシステムを構築しています。マテリアルワールドとしてのサービスの質を保つには私たちが買い取るのが唯一の選択肢だと思います」

 --それはどうしてですか

 「初めは個人と個人を結ぶマーケットプレイスとしてスタートしたのですが、私たちが意図していたような高級ブランド品を掲載する人がほとんどいないことに気付いたんです。H&MやZaraといったファストファッションの写真ばかりが投稿されていました。ユーザーのほとんどはミレニアル世代で、持ち物の写真を撮ってクローゼットの中身を公開することに抵抗のない世代でした。でも、ブランド品をクローゼットにたくさん持っているような人は、自分で写真を撮ったり掲載したりしなくても、サービス提供側が何もかもやってくれることを求めていました」

 --ブランド品ばかり持っている人は恐らく忙しくて、年齢も上の傾向にあるでしょう。クローゼットの中身を処分しようと考えるときに、それを売ったらいくら手に入るかは後回しで、プロセスが分かりやすくて楽な方を望むということですね

 「その通りです。そこで、売り手が一番便利なサービスをつくろうということで、今の宅配便での下取りを始めました。そのときに最も重要だったのが、私たちが売り手から洋服を買うということでした。そうすれば、売り手は買ってくれるかもしれない人のために写真を投稿したり、梱包(こんぽう)や送料のことでいろいろと考えたり、アイテムが売れたかどうか心配したりしなくても済むからです。キットに入れて送るだけで、査定後すぐに買い取り価格の確認ができてカードに入金される。そのシンプルさが私たちの特徴です。私たちが在庫を持つことで、面白いことも起こりました。買い手にとっての大きな心配ごとが解決できたんです。模造品です。専門家が査定して本物と証明したものを売りますから、買い手は安心して買い物ができます」

 ◆市場に合った道

 --事業としては論理的な戦略ですが、大胆で勇敢な決断だと思います。投資家は口をそろえて「在庫は持つな」と言うでしょう。財務的なリスクになり、商品を受け取ったり送ったりするスタッフも必要だというのが通常の考え方です

 「最初は私たちもそう思いました。でも、『正しいやり方』でやっていたのではユーザーが増えませんでした。直接購入する方法を試してみるとユーザーからの関心が急激に高まりました。市場に合ったサービスへの道をようやく見つけたと思いました」

 --共同創業者とはビジネススクールの同級生だとか

 「ハーバードビジネススクール(HBS)で初日から馬の合ったチェン・ジエと2012年に創業しました。HBSの同級生の8割はコンサルティング会社か投資銀行で働いているのではないかと思います。そんな中で私たちは少数派でした」

 --修了後すぐに起業したのですか

 「いいえ。アメリカに残ることに決めてスタートアップに参加したかったのですが、ビザ取得をサポートしてくれるところはなかったので、コーチのデジタルマーケティング部門で働き始めました。ジエもニューヨークのラルフローレンやジェイクルーでオペレーションを担当していました。2人とも起業したいと思っていたので、両者の経験があるファッション分野で共同創業したのは自然な流れでした」

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 矢野氏が「正しいやり方」などの既成概念にとらわれず、柔軟に新しい戦略を試していく意志力には感服する。在庫を持つこと、写真撮影やアイテムのマーケティングを自社で行うこと。これらはリスクであると同時に、洋服リサイクルを目的とする何百何千というマーケットプレイスからマテリアルワールドを完全に切り離すものでもある。

 ニューヨーク発の企業だが、2016年3月にはスタートトゥデイとニッセイキャピタルから総額900万ドル(約10億3000万円)を調達した。ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイから戦略的に得られることはこの金額以上に大きな意味を持つだろう。

 文:ティム・ロメロ

 訳:堀まどか

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【プロフィル】ティム・ロメロ

 米国出身。東京に拠点を置き、起業家として活躍。20年以上前に来日し、以来複数の会社を立ち上げ、売却。“Disrupting Japan”(日本をディスラプトする)と題するポッドキャストを主催するほか、起業家のメンター及び投資家としても日本のスタートアップコミュニティーに深く関与する。公式ホームページ=http://www.t3.org、ポッドキャスト=http://www.disruptingjapan.com/