破格の大型契約も出足でつまずいた「DAZN」 テレビとの視聴者獲得争いどうなる?

スポーツi.
DAZN(ダ・ゾーン)が配信するサッカーJリーグの試合中継を見る子供たち=2月25日、さいたま市大宮区のNACK5スタジアム大宮

 □二松学舎大大学院非常勤講師・宮田正樹

 昨年7月20日に発表された「10年間で総額2100億円」という日本では例のない長期・高額独占放映権契約で話題を呼んだオンライン有料配信サービス、DAZN(ダ・ゾーン)によるJリーグの試合の独占配信(中継)が、開幕早々からつまずいた。

 Jリーグが開幕した2月25、26の両日とも、DAZNの配信はトラブルに見舞われたのだ。25日は16時50分ごろから約20分間、インターネット配信の画像が止まったり、データを読み込めなかったりした。26日には、大阪・吹田スタジアムで開催されたJ1、ガンバ大阪-ヴァンフォーレ甲府戦が当初案内されたチャンネルで視聴できないトラブルがあった。

 このトラブルが長引けば、DAZNの普及やJリーグに大きな影響を及ぼすことになるだろうが、このようなトラブルの発生は、DAZNによる配信決定から噂されていたことでもあり、技術的な問題は早急に改善されていくことであろう。

 そのことよりも、DAZNのようなインターネット上で提供されるウェブサイト、動画や音声などのコンテンツサービス、あるいはそれらを提供する事業者である「OTT」と、テレビとの視聴者獲得争いが本格化してきたことに注目したい。

 ネットフリックスやHulu(フールー)など、数年前から英米のOTT事業が日本に参入してきている。16年末の加入者数をみると、ネットフリックスは世界で9380万に、Huluは1200万に達しているという。

 米国では地上波テレビ、ケーブルテレビ(衛星放送を含む)、OTTが熾烈(しれつ)な視聴者獲得競争を演じている。その中で即時性に価値のあるコンテンツとして「スポーツ中継」が注目を浴び、視聴者つなぎ止めの“キラーコンテンツ”として取り合いとなった結果、昨今の米国におけるスポーツ放映権契約の高騰・長期化につながっている。

 NHKを除くと、視聴者にとって無償となる地上波テレビ(CM対価という広告収入に頼るビジネスモデル)に慣れ親しんだ日本で、米国同様に「スポーツ中継」が視聴者獲得あるいはつなぎ止めのキラーコンテンツになるかというと、軽々には判断できないところがある。

 しかし、これまでJリーグ戦の放映権を有し、看板コンテンツの一つとしていた衛星有料放送「スカパー!」(以下「スカパー」)では、昨年末からの1カ月間に約10万件の解約が発生したという。これはJリーグ戦の放映権の喪失が原因の一つとされている。同社の月額基本料金とサッカー・セットの月額料金の合計は3401円であったので、10万件の解約は年額約40億円の減収をもたらしたことになる。スカパーがJリーグに支払っていた放映権料は年額40億円と言われているから、損益計算上の痛手は軽微なものといえる。年額210億円(実際は165億円から始まり、逓増する方式)となるDAZNの提示した放映権料と張り合ってまで、Jリーグの放映権の維持を図るだけのインセンティブをスカパーは見い出しかねたのであろう。

 しかし、視聴者から料金を徴収するビジネスモデルで同一の土俵に立つスカパーやケーブルテレビ局にとって、DAZNの挑戦の成否がもたらす影響は、成功の場合は特に甚大である。

 広告料収入に頼るというビジネスモデルを続けている地上波テレビ局は「視聴率」という数字(マス)を追うため、万人受けする総花的な番組を作る。すなわち、どの局も「お笑い」「バラエティ」「(同様のストーリーの)ドラマ」といった似たり寄ったりの番組編成で競っている。果たして、このビジネスモデルがいつまで有効かというと、大いに疑問であり、その基盤とする番組はOTTにより簡単に崩される・代替されるものである。

 OTTは“Over The Top”つまり「目標や上限を超える」という意味の略語だ。さまざまなコンテンツやサービスを、通信事業者が提供する回線などを経由して「最も上の階層で提供されるもの」とみなしている。OTTが「最上」の地位を占めるのか、地上波、衛星、ケーブルの各テレビ局がOTTの進出にいかに対応していくのか、そしてそれがスポーツ中継の放映権料にどのような影響をもたらすのか、これからが正念場だ。

                   ◇

【プロフィル】宮田正樹

 みやた・まさき 大阪大学法学部卒。1971年伊藤忠商事入社。物資部、法務部を経て、2000年5月、日本製鋼所。法務専門部長を経て、12年10月から社団法人GBL研究所理事・事務局長(現在に至る)。非常勤講師として04年から二松学舎大学大学院で「企業法務」、帝京大学で「スポーツ法」(08年~16年2月)に関する教鞭(きょうべん)をとっている。