シェアリング・エコノミーの可能性
日本発!起業家の挑戦□スペイシー取締役CFO・梅田琢也氏に聞く
Spacee(スペイシー)は、空いている会議室などのスペースを企業や個人が打ち合わせしたい人に効率的に貸すことができるサービスだ。シェアリング・エコノミーをビジネスに当てはめる面白い取り組みだ。
スタートアップが「Uber(ウーバー)の○○版」とか「XX版Airbnb(エアー・ビーアンドビー)」などと紹介されるとき、特にそれがB2B(対法人)のサービスであるとき、私はサービスに懐疑的になることが多い。しかし、スペイシーは既に3年以上空きスペースのシェア事業を行っており、利用者、収益ともに伸びを見せている。昨年、500スタートアップス・ジャパンの投資先第1号としても話題になった。なにか秘訣(ひけつ)があるに違いない。
日本、特に東京はシェアリング・エコノミー関連のスタートアップにとって、世界中のどの都市よりもずっと好条件を備えている可能性があるという。スペイシーの取締役CFO(最高財務責任者)の梅田琢也氏に話を聞いた。
◆話を聞かれない所
--会議室版Airbnbと説明されることがあります。具体的なサービス内容は
「会社の外で打ち合わせをするとき、喫茶店やカフェで会うのが一般的ですが、ほとんどの人は選択肢があるなら人に話を聞かれない所で話し合いたいと思っています。一方で、会議室が使われていなかったり、部屋が空いている時間があったりする建物も多いです。スペイシーは両者をマッチングするサービスです」
--どんな人が利用しているのですか
「リリース当初は、ユーザーのほとんどが営業担当者になることを想定していました。でも、始めてみると多くの企業がスペイシーを使って会議室を予約し、社内会議に利用するようになりました。打ち合わせスペースが足りないオフィスがたくさんあることが分かりました」
--供給側はどうですか。どんなスペースが掲載されているのでしょう
「使われていない会議室、空き時間のあるオフィス内の一室、コワーキングスペースがほとんどです。ほかには、マンションの部屋もありますし、語学学校の教室がクラスのない時間帯や、カラオケボックスの利用客が少ない時間帯に、スペースを有効活用するために掲載されています」
--カラオケボックスですか
「はい。ユーザーはただ話を他の人に聞かれない、静かな部屋で議論したり、書類の内容を確認したり、チームで必要な仕事を済ませたりしたいのです。特におしゃれな設備が必要というわけではありません。『今すぐ予約』を選べば数分前に検索・予約した空き部屋をすぐに時間単位で利用することができます。スターバックスで打ち合わせを始めたけれど、他の人に話を聞かれては困ると気付いた時点でスペイシーを予約して“個室”に移動するという利用法も多いです」
--掲載数は2000室以上ということですが、潜在的には市場規模はどれぐらいと考えていますか
「新しい市場ですから、予測は難しいです。私たちにとって一番の課題は、一般の人に新しいスペースの使い方に慣れてもらうことです。サービスの考え方を当たり前にする、生活の一部にしてもらうということです。例えば、米国ではタクシー会社に電話をかけて配車を依頼することなど、もう誰もしません。スマートフォンでウーバーなどのアプリを開いてタップするのが当たり前ですよね。コンセプトが理解されて、受け入れられれば、スペイシーの可能性は大きく広がると思います。オフィスで過ごす仕事時間の15%を会議が占めていると言います。社内の会議室がいっぱいで場所を確保できない人がどれぐらいいるか、そしてその逆で余っているスペースがどれほどあるかと考えると、市場はかなり大きくなるはずです」
--日本の大都市を中心にサービスを展開していますが、オフィスが小さくて不動産価格の高い東京のような都市以外でもスペイシーの需要はありますか
「東京ほど人口の密集した都市でなくても、同じようにオフィスビルに空きがあってテナントを募っているオーナーはいます。一方、会議などの目的でスペースを利用したい人もいます。東京以外でも、サービスの魅力が理解されるだろうと自信を持っています。昨年までは東京にフォーカスしていましたが、現在は全国のさまざまなスペースが掲載されています」
--多くの人にとってはまだ新しいコンセプトでしょうね。サービス開始当初は、ユーザー獲得が難しかったですか
「たくさんのビルや会議室のオーナーから1対1で話を聞きました。サービス初期に掲載してくださったオーナーさんは、スペイシーについて質問がたくさんありました。今よりずっと多くのサービス提供が要求され、掲載のために、私たちがデータ入力さえしなければなりませんでした。日本の不動産業界は保守的で、新しい物に対して懐疑的な傾向にあるので時間はかかりました。それに比べて、スペースを利用する側のユーザー獲得はずっとスムーズでした。SEO(検索エンジン最適化)とソーシャルメディアを駆使して、『格安で会議室を借りられますよ!』と宣伝すれば、需要があったので十分でした」
--ウーバーもエアー・ビーアンドビーも日本では苦戦を強いられています。シェアリング・エコノミーに対する態度は変わってきていると実感しますか
「多くの人がまだ態度を決めかねていると思います。ビルのオーナーの多くは、アイデア自体には興味を持っています。若い人はチャンスの到来に期待を抱いていますが、企業内でより決定権のある上の世代にその興奮はなかなか伝わりにくいものです。会議室のシェアに関しては、規制は問題にならないので考え方の問題だと思います」
◆15年後には米上回る
--どんなことを心配しているのでしょう
「部屋を借りた人が室内をめちゃめちゃにしたらどうしよう? 他のテナントはどう思うだろうか? テナントや管理会社との契約にシェアリングは違反しないだろうか? といったことです。難しい問題がありますが、私個人は、15年後には米国よりも日本の方が、シェアリング・エコノミーが大規模になっているかもしれないと思っています」
--理由は
「シェアリングに最適な環境が整っていると思うからです。人口密度が高く、ユーザーを見つけるのは簡単です。マンションは狭く、購入よりも賃貸を選びたい人も多いです。もう一つは、一般的な信用の高さです。人々は他の人に何かを貸したときに、その人が借りた物を大事に使ってくれるだろうと信用しています。コンセプトを理解して安心してもらうことができれば、シェアリング・エコノミーが拡大する素地があります」
日本でシェアリング・エコノミーを実践するスタートアップはあまり多くないが、梅田氏の指摘は説得的だ。規制ばかりが取り上げられるが、実際にはかなりの可能性が眠っているのだろう。
法人向けの会議室シェアの市場規模は実際どれぐらいかというところが、今後スペイシーの課題になってくると思われる。UberやAirbnbはタクシーに向かって手を上げる、配車を要求する、ホテルを予約するといったすでに日常的な行動についての新しいやり方を提案し、より使いやすく、便利で安価な方法に変えた。それに比べると、会議室を借りることはもともと一般性が高いとはいえない。一般の人が時間単位でスペースを借りるようになるには、スペイシーがコンセプトを社会に浸透させ、定着させる力量が試される。
国内のシェアリング・エコノミーを牽引(けんいん)する一社の今後に注目しよう。
文:ティム・ロメロ
訳:堀まどか
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【プロフィル】ティム・ロメロ
米国出身。東京に拠点を置き、起業家として活躍。20年以上前に来日し、以来複数の会社を立ち上げ、売却。“Disrupting Japan”(日本をディスラプトする)と題するポッドキャストを主催するほか、起業家のメンター及び投資家としても日本のスタートアップコミュニティーに深く関与する。公式ホームページ=http://www.t3.org、ポッドキャスト=http://www.disruptingjapan.com/
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