低税率国に知的財産を移す際の税務

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 □岡野公認会計士事務所 公認会計士・税理士 岡野貴幸

 中小企業のビジネス展開として、また事業承継後のオーナー個人の資産移転として、国境をまたぐ税務、国際税務の相談が増えている。関心が高まっている国際税務について触れる。まず、海外事業展開に当たって税務上の留意点を述べる。代表例としてシンガポールへの事業展開を取り上げる。

 シンガポールの法人税は17%だが所得により段階的に税率が上がっていく仕組みになっているので、実際はほとんどの会社の実効税率が10%を切るといわれる。また所得税は2%から始まり、所得が高い人ほど税率が上がる仕組みで、最大税率は22%となるが、日本に比べてかなり低い。

 税務上の留意点として、よくある例を挙げてみよう。日本に会社を保有するオーナーが、シンガポールに会社を設立する。ビジネスのノウハウや著作権などの知的財産はシンガポールの会社に移し、その使用料を日本の会社から支払うケースである。

 この場合、日本の会社にある無形資産をシンガポールの会社に売却する形となるため、まず知的財産の売却額が問題となる。法人税率は日本が高く、シンガポールは低いから、オーナーは売却金額を低く抑えて日本の会社の利益を小さくしたいと考えるだろう。もちろん税務署はこの売却金額について適正な価額であるかどうかを確認する。しかし、この価額の妥当性は判断が難しく、企業の言い値によっていた部分もあった。この点について知的財産を低税率国に移した後に、低税率国での稼ぎが当初想定よりも膨らんだときは、日本で再課税できる税制改正が検討され、2018年度にも導入される見込みとなっている。改正案では5年ほど経った時点で海外に移転した知的財産を再評価し、収益性が商業化前の企業の見積もりより20%以上上回った場合は、差額分に課税できる仕組みを検討しているようだ。

 次に日本の会社がシンガポールの会社に定期的に支払う知的財産の使用料の金額が問題となる。こちらは知的財産の売却額とは逆に、金額を高くしたいとオーナーは考えるだろう。日本の会社の経費計上額が多くなり、シンガポールの会社の収入額が増える。つまり、日本とシンガポールの法人税率の差分の税金が減ることになるからだ。こちらも税務署は第三者との取引と比較しながら、価格の妥当性や支払いが適切か、などを詳しくチェックする。海外企業は、この使用料を利用した節税策を行う企業が多く、数年前に米アップルのケースがニュースで取り上げられた。日本企業の国際的な取引が増えるにつれて、税務署のチェックもより厳しくなってきている。

 国際税務は留意点が多く、制度の変更も予想される分野である。常に最新の情報収集が必要となる。

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【プロフィル】岡野貴幸

 おかの・たかゆき 立教大経済卒。2008年あずさ監査法人入社。製造業、石油業を中心に、法定監査、任意監査、内部統制監査などの業務に従事。12年ベンチャー企業に入社。14年岡野公認会計士事務所を設立し、現職。医療関係税務、M&A(企業の合併・買収)、不動産買い替えなどをサポート。31歳。埼玉県出身。