(2)若者のビール離れは嘘!? 低迷市場でクラフトビールが快進撃、味オンチの記者も醸造に挑戦!

酒豪女子が行く
金澤春香(かなざわはるか)ブルワー

 盛り上がりを見せるクラフトビール業界で、世界中の愛好家から注目される伊勢市の小さなブルワリー「伊勢角屋麦酒」。ウキウキが止まらない“酒豪女子”の筆者が取材に行くと、あろうことか「ビール造ってみる!?」と鈴木成宗社長(49歳)から大胆すぎる提案を受け、新ビールの醸造に挑戦することに。しかし、開始早々に筆者の味音痴が露呈し、商品企画は難航。鈴木社長からもツッコミが入る中、醸造計画は無事に始動するのだろうか。

▼前回の話(1):ビール界のオスカー受賞、伊勢市のブルワリーに世界が注目 餅屋から飛躍した社長の“型破りな創業”

酒豪記者の無茶ぶりにブルワー困惑

 鈴木社長に促されるままあれよあれよと話が進むビール醸造企画。しかも、なんと3カ月後に無事完成した暁には、オンライン通販「産経ネットショップ」で販売することまで決まった。筆者が造ったビールが商品になる!? “酒豪女子”の筆者に舞い降りた千載一遇のチャンスだ。

 そんなこんなで、早速商品企画に取りかかる。伊勢角屋麦酒には現在、出口善一ヘッドブルワー(49歳)と金澤春香ブルワー(28歳)が在籍しており、この2人の技によって世界トップクラスの味と品質を実現している。

「普段、新商品を作るときは会議もせず、コンセプトもレシピも全てブルワーに任せています」と鈴木社長も全幅の信頼を寄せるほどだ。今回は2人にも会議に加わってもらい極上のビール造りを指南していただく。これは心強い。

 さて、新ビールのコンセプトはバッチリ決まっている。「産経らしく“辛口ドライ”にしましょう!」と意気軒昂に口火を切る筆者。あれ、なんだかブルワーの顔色が曇った気がするぞ…? 「うちの主要読者は40~50代のビジネスパーソンです。クラフトビールに馴染みがない世代でも美味しく飲める商品を作りたいです!」と続けるも、鈴木社長から返ってきたのは「正直、一番やりにくいところ」という厳しい言葉。「私どもは業界でも尖ったビールを造っているので、普段クラフトビールを飲まない熟年層は最もハードルが高いです」と鈴木社長は苦笑い。金澤ブルワーも「クラフトビールメーカーで“辛口”を謳うところはそうないです。大手と差別化しようというメーカーが多いので…」と困惑気味。開始1分、早くもつまずいた。

低迷市場でクラフトビールが快進撃 大手参入で競争激化

 それにしても、クラフトビールの快進撃には目を見張るものがある。低迷の打開策をなかなか見いだせずにいる国内ビール市場は縮小の一途をたどり、大手5社が発表した2016年の国内ビール類出荷量は前年比2.4%減。12年連続で過去最低を更新した。

 一方、クラフトビールは威勢がいい。16年1-6月の地ビール出荷量は前年同期比4.2%増と、不振の大手を尻目に好調ぶりを見せつける。関東近郊では夏になると毎週のようにビアフェスティバルが開催され、「ビール離れ」がまるで嘘かのように若者で活気づく。都内ではブルーパブと呼ばれる醸造所併設のレストランも次々とオープン。コンビニ棚でも今や常連となり、お馴染みの国内ラガーと陣取り合戦を繰り広げる。

 大手もこの活況を見過ごすわけにはいかない。キリンビールは、ブームの火付け役にもなったヤッホーブルーイング(長野県)や米大手のブルックリン・ブルワリーと資本業務提携を結び、クラフトビールの製造販売に本腰を入れる。存在感が高まっているとは言え、国内のクラフトビールのシェアは16年時点で1%にも満たない。まだまだ微々たる市場に見えるが、藁にもすがる思いの大手各社はクラフトビールに再起を託す。

 そんな大手参入を警戒しているかと思いきや、クラフトビールメーカーは意外にも歓迎ムードのようだ。「大手進出で市場が拡大し、ファンが増えるのは大歓迎」と鈴木社長は期待を寄せる。「ただ、競争激化は避けられません。弊社では『ナンバーワン』か『オンリーワン』の商品開発を徹底し、市場争いを勝ち抜きます」とのこと。伊勢角屋麦酒では、国内外の審査会で金賞に輝く「ペールエール」で世界最高レベルを維持することを目指している。また、2人のブルワーに対してもとことん独創性の強い商品造りを求めており、「国内他社に負けない努力を今後も続けます」と、鈴木社長は“未来のレッド・オーシャン”で生き抜く覚悟を見せる。

味オンチの記者に社長ツッコミ「それをしたら逆の味になる!」

 商品企画に戻ろう。会議は開始1分で雲行きが怪しくなってきた。筆者が焦りを募らせる中、出口ヘッドブルワーが「“辛口”のイメージをつかみたいので、一回飲んでもらいますか」と切り出し、伊勢角屋麦酒の主要ラインナップをズラリと並べてくれた。まずは柑橘系の香りが特徴の「ペールエール」と、後から苦味が追ってくる「フォースIPA」を飲み比べる。

 筆者「 わっ!香りが全然違う!」

 社長「ホップの種類がだいぶ違いますから」

 筆者「『ペールエール』の方が苦味があるんですね!」

 出口さん「いや、ないです」

 筆者の味オンチが露呈するも、鈴木社長が「苦味を感じる成分は『フォースIPA』の方が圧倒的に多いですが、人間はいろんな成分や香りが複合的に絡んだ中で苦味を感知するので、そう感じることもあるかもしれないですね」と助け舟を出してくれた。

実際に香りと味がしっかりしたクラフトビールの試飲を続けると、筆者の味覚はさらに麻痺し、途中で一般的なラガービールを飲んだら水のように感じるほどだった。

 筆者「“辛口”のイメージに近いのは『ペールエール』でした」

 社長「『ペールエール』に近いならうちの得意分野ですよ」

 筆者「もう少し“もったり”させることはできますか?」

 社長「もったりさせていいの!? “辛口”のコンセプトは!? 逆方向の味になりますよ!?」

 まずい。筆者の味オンチのせいで企画倒れになりそうだ。でも、めげないっ!

 筆者「“もったり”というか、なんというか…クラフトビールを口に含んだ時の、あの“濃い”感じというか…」

 出口さん「コク味?」

 筆者「それです!」

 金澤さん「それならIPA(インディア・ペールエール)ですね」

 どうやら筆者のイメージに重なるのは、ホップをふんだんに使った苦味のある『IPA』というビールの種類らしく、しかも伊勢角屋麦酒にとっては“十八番”の分野だそう。こうなればしめたもの。アルコール度数と色を決めて会議は無事終わった。

 最後まで鈴木社長には「本当にこのレシピでいいの?(笑)」と聞かれたが、すでに“酒豪女子”の脳内では完璧な辛口ビールの味が再現されている。この記事をお読みのあなたもきっと気に入るはずだ。次回更新では本格始動、いよいよ「仕込み」の工程に入るぞ!

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 この連載では、盛況のクラフトビール業界で注目を集める伊勢角屋麦酒の秘密に迫る。自称“酒豪女子”の記者が実際にビール造りに挑戦。3カ月かけて商品企画から販売まで取り組んだ。次回更新は5月15日(月)予定。(SankeiBiz 久住梨子)

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