不正発覚から1年 三菱自の主力工場、地元下請けの危機感消えず
昨年4月に発覚した三菱自動車の燃費データ不正問題から1年。主力工場の水島製作所(岡山県倉敷市)では主力の軽自動車の生産が2カ月半にわたり停止し、地元経済は大きなダメージを受けた。その後日産自動車の傘下に入り、稼働率は不正発覚前の水準に戻りつつあるが、地元の下請け企業の危機感は消えず、その表情は決して明るくない。
3割減
「日産主導になれば部品メーカーが絞り込まれ、あぶれた企業は淘汰(とうた)される」。ある地元企業の幹部はコストカッターとして知られる日産のカルロス・ゴーン会長の経営手腕に危機感を募らせる。
不正問題の影響で、昨年1年間の水島製作所の生産台数は前年同期比3割減の約20万5000台にとどまった。三菱自はスポーツ用多目的車(SUV)「RVR」の生産を岡崎製作所(愛知県岡崎市)から移管することを決めたが、安定した稼働率を維持するには主力の軽自動車の販売回復が欠かせない。
受注競争
「水島製作所を最大限活用するので安心してほしい。V字回復の鍵を握るのは取引先の皆さんだ」。三菱自の益子修社長は4月上旬、日産傘下入り後初めて岡山県を訪れ、部品メーカー12社の協同組合「ウイングバレイ」(総社市)に協力関係の維持を呼び掛けた。
出席者によると、益子社長は三菱自が開発する車種の部品調達を従来通り自社で行う方針を説明。一方、「これからは三菱自と日産の『いいとこ取り』で改善のスピードを上げる」とも話し、地元下請けが日産系の下請けと競合することも示唆した。
水島製作所で生産し、2018年度に発売する見通しの軽自動車「eKワゴン」「デイズ」の次期モデルは初の日産主導の開発だ。エンジンや変速機などの1次下請けが日産系の部品メーカーに決まり、受注を逃したり、1次から2次に降格したりする地元下請けが出始めているという。
多角化
地元下請けの中には経営安定化に向け、新たに自社で最終製品を造ったり、三菱自以外の取引先を探したりする動きも出ている。しかし、売上高に占める三菱自の割合は高く、過去の取引実績を重視する自動車業界の習慣もあり、多角化はなかなか進まない。
三菱自が今春インドネシアに新工場をオープンするのに合わせ、同国に進出する地元企業も相次ぐ。三菱自頼みの経営は当面続きそうだ。
益子社長は「日産との資本提携は部品メーカーにとってビジネスチャンスだ」と繰り返すが、ウイングバレイの昼田真三理事長は「傘下入りの影響が地元メーカーに目に見える形で表れてくるのはこれからだ」と警戒する。
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